472人が本棚に入れています
本棚に追加
____名前はねぇ……んと……んと……”小雪” にする!
____雪みたいに真っ白できれいだから!
そう言って、お姉ちゃんが付けてくれた私の名前。
小雪、小雪と呼ばれるたびに嬉しくて、呼ばれた分だけ返事をすると、お姉ちゃんも嬉しいみたいでしつこいくらいに私を呼ぶの。
____小雪!
うなっ!____
____小雪?
うなな?____
____小雪ちゃん
うななん____
そうして始まった初めての家暮らし。
雨が降っても身体は濡れず、風が吹いても飛ばされない。
車もいないし悪童共ももちろんいない。
家族は優しく、家の中ならどこに行っても怒られないし、決まった時間に出されるゴハンに、たまにくれる美味しいオヤツも楽しみだった。
楽しみと言えばもうひとつ。
夜寝る前にお姉ちゃんが必ず私を遊びに誘うの。
カサカサと音がする猫じゃらし、鈴が入った小さなボールにアルミホイルを丸めた物も他にもたくさん。
そういうオモチャでたっぷり遊んで、はしゃいで笑い転げた後は、お姉ちゃんと一緒の布団で眠りについた。
____小雪はあったかいなぁ、
____それにすっごくフワッフワ!
言いながら、私を撫ぜるお姉ちゃんもホカホカだった。
お姉ちゃんは頭にしか毛がないけれど、肌がツルツルしてるから、頬を寄せると気持ちが良くてすぐに喉が鳴ってしまう。
…………本当に楽しい毎日だった。
あの日、お姉ちゃんが助けてくれて、私達は家族になった。
仔猫の頃から長い年月ずっと一緒で、20年の命が終わるその瞬間まで私の傍にいてくれたよね。
お姉ちゃんはたくさん泣いて、私の名前を悲痛な声で叫んでたっけ。
私はあの時、……死んじゃってごめんね、悲しませてごめんねと、心の中で何度も何度もあやまった。
それと同時、先に逝くけど向こうでずっと待ってるからね、とも思ってた。
離れ離れは淋しいけれど、お姉ちゃんは私の分までいっぱい生きて、大往生で命が終わったその後に、笑って迎えに来てくれるのだと心の底から信じてた。
だから私は虹の国に着いた時、生まれ変わりを断って何年も何十年も待っていたのだ。
それなのに……お姉ちゃんは私の事を忘れてしまった。
”雪みたいに真っ白だから” と、私にくれた名前でさえもハムの子のもの。
何十年も待って待って、待ちくたびれた大好きなお姉ちゃん。
彼女の中に ”猫の小雪” はどこにもいない。
最初のコメントを投稿しよう!