第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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____名前はねぇ……んと……んと……”小雪” にする! ____雪みたいに真っ白できれいだから! そう言って、お姉ちゃんが付けてくれた私の名前。 小雪、小雪と呼ばれるたびに嬉しくて、呼ばれた分だけ返事をすると、お姉ちゃんも嬉しいみたいでしつこいくらいに私を呼ぶの。 ____小雪!     うなっ!____ ____小雪?     うなな?____ ____小雪ちゃん     うななん____ そうして始まった初めての家暮らし。 雨が降っても身体は濡れず、風が吹いても飛ばされない。 車もいないし悪童共ももちろんいない。 家族は優しく、家の中ならどこに行っても怒られないし、決まった時間に出されるゴハンに、たまにくれる美味しいオヤツも楽しみだった。 楽しみと言えばもうひとつ。 夜寝る前にお姉ちゃんが必ず私を遊びに誘うの。 カサカサと音がする猫じゃらし、鈴が入った小さなボールにアルミホイルを丸めた物も他にもたくさん。 そういうオモチャでたっぷり遊んで、はしゃいで笑い転げた後は、お姉ちゃんと一緒の布団で眠りについた。 ____小雪はあったかいなぁ、 ____それにすっごくフワッフワ! 言いながら、私を撫ぜるお姉ちゃんもホカホカだった。 お姉ちゃんは頭にしか毛がないけれど、肌がツルツルしてるから、頬を寄せると気持ちが良くてすぐに喉が鳴ってしまう。 …………本当に楽しい毎日だった。 あの日、お姉ちゃんが助けてくれて、私達は家族になった。 仔猫の頃から長い年月ずっと一緒で、20年の命が終わるその瞬間まで私の傍にいてくれたよね。 お姉ちゃんはたくさん泣いて、私の名前を悲痛な声で叫んでたっけ。 私はあの時、……死んじゃってごめんね、悲しませてごめんねと、心の中で何度も何度もあやまった。 それと同時、先に逝くけど向こうでずっと待ってるからね、とも思ってた。 離れ離れは淋しいけれど、お姉ちゃんは私の分までいっぱい生きて、大往生で命が終わったその後に、笑って迎えに来てくれるのだと心の底から信じてた。 だから私は虹の国に着いた時、生まれ変わりを断って何年も何十年も待っていたのだ。 それなのに……お姉ちゃんは私の事を忘れてしまった。 ”雪みたいに真っ白だから” と、私にくれた名前でさえもハムの子のもの。 何十年も待って待って、待ちくたびれた大好きなお姉ちゃん。 彼女の中に ”猫の小雪” はどこにもいない。
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