第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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____静かな場所に行きたいのなら光道(ウチ)に来たら良いわ、 そう言って白雪は、私を軽々肩に担ぐと大きなビルに入っていった。 そして、エレベーターの横を過ぎ、迷う事なく階段を駆け上がる。 さすが、常日頃から霊体(からだ)を鍛えているだけあるわ。 ゴージャスボディの私を抱えて(7キロ弱)階段のぼり。 なかなかどうしてハードなはずが、息一つ乱れていない。 大したものね、なんだか誠を思い出す。 隙あらば、あの子もしょっちゅう鍛えているもの。 タッタッタッタッ! それにしても……長いわね。 いつまで経っても止まらない、延々と上がり続けてるんだけど。 『ねぇ、白雪。何階まで行くつもりなの?』 何階だって私は抱っこで楽ちんだけど、なんとなく聞いてみたのよ。 すると白雪は、 『ん? このビルの最上階、200階までのぼるわ! そのフロアには私の部屋、”長室(おさしつ)” があるの、そこでゆっくりお話ししましょ!』 そう言って私に笑顔を向けたんだけど……ちょ、200階ってウソでしょう? 死者は霊体、生身の身体を持たないとは言え、まったく疲れない訳ではないはず。 まったく、ここまでくるとあっぱれね。 大したものだわ。 …… ………… ……………… 『さぁ、入って! 今お茶を用意するわ! あ、大福ちゃんは猫だから白湯の方がいいかしら?』 言いながら、ガキン! と野太い音をさせ、指を鳴らしたその直後、ホカホカと湯気の立つ白湯と紅茶が構築された。 白雪は私の白湯をふーふーと冷ましてる。 本当にこの子は優しくて、面倒視が良いのよね。 『ありがとう、白湯は大好きよ。それと、長室(ここ)に連れてきてくれたのも嬉しいわ。この部屋におじゃまするのは初めてね。春に来た時は平蔵と一緒に彰司の家に泊まっていたし』 フカフカソファを勧められ、私は飛び乗り白湯を一舐めいただいた。 ちょうど良い温度だし、それになんだかとっても美味しい。 ニコニコ笑う白雪は、テーブルを挟んだ向かいのソファに腰かけた。 そして紅茶を綺麗な所作で一口飲んでこう言った。 『そうだったわねぇ。ここで良ければいつでも遊びに来てちょうだい。それで、今日はなにかの用事? 平蔵さんは一緒じゃないの?』 私は首を横に振り、平蔵はいない、イチニャンきりな事を説明する。 『平蔵は一緒じゃないわ。今日は私だけで来たの。白雪と朋美に教えてもらった惑星単位の瞬間移動、それをつかってね』 『わぁ! すごいじゃない! いつ来たの? もしかしてさっき着いたばかりとか?』 『ううん、着いたのは昨日よ。でも、昨日は虹の家族の所に行っていたから、黄泉に来たのは今朝なのよ。今日はね、黄泉の国に(ひと)を探しに来たの』 『(ひと)? 誰を探しに来たのか、私が聞いても大丈夫? ダメなら無理には聞かない。でも、もしも私に出来る事があれば、それは遠慮なく言ってほしいわ』 この子のこういう所、……優しくて気遣いが細やかで、決して押し付けたりしない。 猫ってね、こういうヒトが好きなのよ。 『ううん、ううん、白雪なら構わないわ。私、……家族を探しに来たの。生きていた頃、一緒に暮らした飼い主の女性よ』
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