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私は、お姉ちゃんとの事の次第を手短に説明した。
白雪は、最初から最後まで真面目な顔で聞き入って、そして。
『そんな事があったの……大福ちゃん、辛かったわね、淋しかったわね……ああ、でも……でもね、私思うのよ。主さんは忘れたくて忘れたんじゃない。若年性の認知症、ご病気がそうさせてしまったんだって、』
テーブル越しに鋼の腕を真っすぐ伸ばし、私の手を取り静かに言った。
『……それは家族にも言われたわ。私もね、……悲しいけれど、そういう事なら仕方がないとは思うのよ。でも____』
____でも、
”猫の小雪” は忘れていても、”ハムスターの小雪” は覚えてた、……と、ギリギリ喉まで出かかるも、それをどうにか呑み込んだ。
口に出せば辛くなるし、白雪だって困らせる。
だから私は言葉を変えた。
『でも、1つ解せない事があるの。黄泉の国にはあらゆる病気や怪我を治す ”オートリカバー” が働いているはずよね?★ 生きていた頃、年を取ったお姉ちゃんは認知症になったのかもしれない。だけどそれも、黄泉の国に降りた時点で治るはずではないのかしら、』
そう、お姉ちゃんが虹に来た時、草の大地を駆けていた。
大きな声でハムの名前を呼びながら、年老いた視た目に反し、若者みたいに力強く走っていたの。
それはつまり、オートリカバーが正常に働いたという事よ。
それなのに、私の事は忘れたまんま……そこに矛盾を感じるわ。
もしかして……忘却の原因は認知症ではない?
そうだとすれば、もっと悲しい、もっと辛い。
私の疑問に白雪は、
『そうね、確かにオートリカバーはあらゆる不調を修復するわ。病気でもケガでも、霊体に関しては全てをリカバーする。でもね、そんなオートリカバーもヒトの記憶にはあえて干渉しないのよ』
言いながら、大きく首を横に振る。
私はそこにさらに疑問を投げかけた。
『記憶には干渉しない? ”干渉出来ない” ではなく ”しない” なの? なぜ? 誰かの記憶を ”消す” でも ”改ざん” するでもない、”復元” であっても?』
すると白雪は、今度は首を縦に振ってこう言った。
『ええ、復元であってもよ。なぜなら、記憶というものは頭の中で複雑に絡み合ってるの。1つの記憶に幾つもの別の記憶が紐づいて、紐づいた先でまた別の記憶が紐づいている。生きてる間もその後も、毎日記憶を積み重ね複雑さを増し、それが、そのヒト自身の性格を、自我をを作っているのよ。だからその記憶を、特例を除いて外部から干渉してはならないの。干渉すれば、紐づけされた他の記憶に影響が出てしまう。下手をすれば、その霊がその霊でなくなってしまうかもしれないでしょう?』
そうか……だから記憶に関しては、オートリカバーが効かないんだ。
★黄泉の国のオートリカバーが出てきたのはうんと前なので補足です。
リカバーについて書いてあるのがこの辺りのシーンです(霊媒師本編に飛びます)。
https://estar.jp/novels/24474083/viewer?page=652&preview=1
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