第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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私は、お姉ちゃんとの事の次第を手短に説明した。 白雪は、最初から最後まで真面目な顔で聞き入って、そして。 『そんな事があったの……大福ちゃん、辛かったわね、淋しかったわね……ああ、でも……でもね、私思うのよ。(ぬし)さんは忘れたくて忘れたんじゃない。若年性の認知症、ご病気がそうさせてしまったんだって、』 テーブル越しに鋼の腕を真っすぐ伸ばし、私の手を取り静かに言った。 『……それは家族にも言われたわ。私もね、……悲しいけれど、そういう事なら仕方がないとは思うのよ。でも____』 ____でも、 ”猫の小雪” は忘れていても、”ハムスター(ハム)の小雪” は覚えてた、……と、ギリギリ喉まで出かかるも、それをどうにか呑み込んだ。 口に出せば辛くなるし、白雪だって困らせる。 だから私は言葉を変えた。 『でも、1つ解せない事があるの。黄泉の国にはあらゆる病気や怪我を治す ”オートリカバー” が働いているはずよね?★ 生きていた頃、年を取ったお姉ちゃんは認知症になったのかもしれない。だけどそれも、黄泉の国に降りた時点で治るはずではないのかしら、』 そう、お姉ちゃんが虹に来た時、草の大地を駆けていた。 大きな声でハムの名前を呼びながら、年老いた視た目に反し、若者みたいに力強く走っていたの。 それはつまり、オートリカバーが正常に働いたという事よ。 それなのに、私の事は忘れたまんま……そこに矛盾を感じるわ。 もしかして……忘却の原因は認知症ではない? そうだとすれば、もっと悲しい、もっと辛い。 私の疑問に白雪は、 『そうね、確かにオートリカバーはあらゆる不調を修復するわ。病気でもケガでも、霊体(からだ)に関しては全てをリカバーする。でもね、そんなオートリカバーもヒトの記憶には(・・・・・・・)あえて干渉しないのよ』 言いながら、大きく首を横に振る。 私はそこにさらに疑問を投げかけた。 『記憶には干渉しない(・・・・・)? ”干渉出来ない(・・・・・・)” ではなく ”しない(・・・)” なの? なぜ? 誰かの記憶を ”消す” でも ”改ざん” するでもない、”復元” であっても?』 すると白雪は、今度は首を縦に振ってこう言った。 『ええ、復元であってもよ。なぜなら、記憶というものは頭の中で複雑に絡み合ってるの。1つの記憶に幾つもの別の記憶が紐づいて、紐づいた先でまた別の記憶が紐づいている。生きてる間もその後も、毎日記憶を積み重ね複雑さを増し、それが、そのヒト自身の性格を、自我をを作っているのよ。だからその記憶を、特例を除いて外部から干渉してはならないの。干渉すれば、紐づけされた他の記憶に影響が出てしまう。下手をすれば、その(ひと)がその(ひと)でなくなってしまうかもしれないでしょう?』 そうか……だから記憶に関しては、オートリカバーが効かないんだ。 ★黄泉の国のオートリカバーが出てきたのはうんと前なので補足です。 リカバーについて書いてあるのがこの辺りのシーンです(霊媒師本編に飛びます)。 https://estar.jp/novels/24474083/viewer?page=652&preview=1
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