第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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◆ ブンッ、 移動の陣は使わずに、白雪が私を抱えて瞬間移動のスキルを発動。 瞬き1つも終わらないうち、光道(こうどう)の最上階から、のどかな景色の地上へと降り立った。 広がる大地。 遥か遠くに青くかすむ山並みが、地面は野草と野花で溢れ、土の匂いと葉の匂い。 虹にあるよな浅い小川が縦に伸び、近くには手入れの届いた畑があった。 キャベツにナスにトマトにきゅうり、大根、ニンジン、ピーマンに、オクラにじゃが芋さつま芋。 これだけあれば食べるのに困らない。 豊かな野菜が露を散りばめ、朝の光をシャワーのように浴びていた。 その野菜畑のすぐ後ろには、藁ぶき屋根の小さな平屋が建っていて……そう、ココが彰司の住む家なのだ。 黄泉の国ならいくらでも大きな家が建てられるのに、慎ましい事この上ない。 まぁ、らしいと言えばらしいのだが。 そして、小さな家から数歩離れた右隣には、枝葉が深い視上げる程に大きな木がある。 なんでもこれは ”御神木” というものらしい。 昔、彰司が生きていた頃、実家の裏手にこれと同じ御神木があったとか。 彰司とその妻、二人が初めて出会ったのが御神木の下だった……という思い出深いものだから、希少の霊力(ちから)で枝一本違える事なく、同じ木を黄泉に構築したんだそうだ。★ 私、前回来た時。 そんなに大事な木とは知らずに、バリバリと思いっきり爪を研いじゃったのよね。 それを視た平蔵は、慌てて私を引き剥がしたけど、当の彰司も妻の佐知子も笑って許してくれたのよ、……うなな、あれは悪い事をしたにゃ。 私はあの時、反省して妖力(ちから)で修復しようとしたのに、しなくていいと言われたの。 二人共、”これも楽しい思い出になる” 、そう言って声を上げて笑ってたっけ。 彰司も佐知子も元気だろうか。 我々は命を持たない死者だから、元気もなにも、病気や怪我とは無縁の霊体(からだ)になったけど、それでも二人が毎日仲良く笑っていたら、毎日楽しく幸せでいるのなら、それがなにより嬉しく感じる。 ネコとヒト、種族も違うし血の繋がりも勿論ないけど、彰司も佐知子も大事な大事な友人にゃ。 どうしたってそう思うのよ、……と、そんな事を考えてると、私を肩から地に降ろしてから白雪がこう言った。 『さて、彰司くんのオウチに着いたわ。この時間なら畑も終わって、朝ゴハンも食べ終えて、今頃はお茶を飲んでる頃だと思うの。だから多分いるはずだけど、私ったら気が急いちゃって、連絡無しで来ちゃったのよね。お出かけ中じゃなければ良いな……とりあえず、声を掛けてみましょう』 思い立ったらすぐ行動。 フットワークの軽さで言ったら右に出る(もの)はいない、そんな白雪は大きく息を吸い込むと…… 『しょーうーじーくーん! さーちーこーちゃーん! おはようございまーす! 白雪でーす! 朝早くからごめんなさーい! オウチにいたら出てきてもらえますかー!』 まるで現世の小学生の、遊びに誘う子供のような声をかけ、それに対してレスポンスはすこぶる早く、パタパタと家の奥から音が聞こえたそのすぐあと。 横開きの格子の扉がガラリと開いて、 『白雪さん?』 と、彰司が顔を覗かせたのだ。 ★瀬山と妻の佐知子が初めて出会ったシーンがこの辺りです。(別昨『口寄せ』に飛びます) https://estar.jp/novels/24467908/viewer?page=4&preview=1
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