第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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◆ 『白雪さんも大ちゃんも。さぁ どうぞ、散らかっていますけど上がってください』 連絡の一つも入れずに突然やって来たというのに、彰司は笑顔で迎えてくれた。 通されたのは明るい和室で、木目の座卓にフカフカ座布団。 床の間には百色華(ひゃくしょくか)の一輪挿しが飾ってあって、時間で色を変えている。 座卓を挟んだ向こうに彰司、こちら側には私と白雪、それぞれ座ったそのすぐ後。 着物姿の佐知子が部屋に、お盆を持ってやってきた。 そして、はにかむように微笑みながら、 『白雪さん、大ちゃん、ようこそいらっしゃいませ。来てくださって嬉しいです』 白雪には緑茶、私には白湯を出してくれたのよ。 佐知子と会うのはこれで2回目、……なんだけど、私が白湯が好きだって事、覚えていてくれたのね……私の方こそ嬉しいわ。 お茶と一緒に出されたお菓子はパウンドケーキ。 聞けば佐知子の手作りで、畑で採れたさつま芋が入ってるの。 一口食べれば甘くてほっぺが落ちちゃいそう。 普段は英海(ひでみ)がうるさく言うから、こういう物はめったな事では食べられない。 ____人間の食べ物は猫には味が濃いんだよ、 ____だからお姫は食べちゃダメなの、 そりゃあね、生きた猫なら注意をしなくちゃいけないけれど、命を持たない猫又だったら何を食べてもダイジョブなのに、心配性にも程がある。 ま、それで英海(ひでみ)が安心するならガマンするけど、でも、いない時には食べちゃうもんね。(うまいにゃー!) …… ………… ……………… 美味しいお菓子とお茶を飲みつつ(私は白湯)、 『突然来ちゃってごめんなさい!』←白雪 『ぜんぜん、いつでも大歓迎です』←彰司 『今日は泊まっていかれませんか?』←佐知子 『ケーキうまいにゃー!』←私 しばらくそうして、他愛のないお喋りをした後に本題に移ったの。 最初に言ったのは白雪だった。 『それでね、今日来たのは彰司くんにお願い事があるからなのよ、』 『願い事?』 そう言って、彰司は首を傾げてる。 芋のケーキは3つ目で、モグモグ咀嚼が止まらない。 そんな彰司に白雪は、コクッと頷き4つ目の芋のケーキに手を伸ばす。 私も私で残り少ないケーキに焦り、まだ食べている途中だけれど、2つ目のケーキを引き寄せ確保した。 その様子をそばで視ていた佐知子はというと、 『売れてます、売れてます……! 私の作ったケーキ、売れ行き好調です!』 と、頬を赤らめ、それはそれは嬉しそう。 そんにゃこんにゃでケーキも完売。 美味しかったと大満足し、そして…… 『彰司、さっき白雪が言った願い事なんだけど、実はね(ひと)を探してほしいのよ。私の妖力(ちから)じゃ手に負えなくて、彰司なら探せるんじゃないかと思ったの。それで、捜索範囲は黄泉の国全域なんだけど、……やっぱり広すぎるかしらね』 自分のお願い事だから、私の口で頼んだの。 どうかしら、イケそうかしら、さすがの彰司も黄泉全域は無理かしら……とドキドキしながら待ってると、 『黄泉の国で(ひと)探し? なんだ、そんな事かぁ。もちろん良いよ。大ちゃんと白雪さんのお願いだもの。お安い御用だ』 いとも簡単にそう言ってのけたのにゃ!
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