第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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◆ ただでさえ大きな大きな黄泉の国。 多星籍であり色んな星の死者達が、地上だけに留まらず、陸底海空異(・・・・・)、思い思いの好きな場所に住んでいる。 その中からたった一霊(ひとり)を探すなど、神技としか思えない……が、それを彰司は ”そんな事か” と笑いながら言ったのだ。 英海(ひでみ)の言葉を借りるなら、”瀬山 彰司、マジパネェ”。 霊探(ひとさが)しを頼むにあたり、私は彰司にこれまでの事情を説明した。 生きていた頃、お姉ちゃんとはとっても仲が良かった事。 私が先に死んだ後、虹の国で迎えがくるのを数十年も待っていた事。 それなのに、最終的にはお姉ちゃんに忘れ去られてしまった事。 そういうのを手短に、なるべく暗くならないように話したつもり……だったけど、彰司の後ろで佐知子が両目を押さえてる、着物の袖のそこだけ色が変わってしまった。 そんな佐知子の頭を撫ぜて、彰司は私に向き直り……そして。 『そうか……大ちゃんの探したい(ひと)、会いたい(ひと)はご家族だったんだね。話してくれてありがとう。事情は分かったよ。そういう事なら、今すぐにでも探し出そう』 と、優しい目をして力強くそう言ったんだ。 それから、彰司はみんなで外に出ようと言い出した。 お姉ちゃんを探す手段は、やはりと言うか霊視をするという事で、捜索範囲が広域だから家の中より外の方がやりやすいとのコトだった。 玄関を出ると、横を向いたら御神木、前を向いたら豊かな畑、それより先は広がる大地。 畑以上に豊かな野草と野花に溢れ、それらが風に揺れている。 私達は彰司の後ろをついて歩いていたんだけども、畑を過ぎて、草を踏みしめしばらく行って、彰司の家がそこそこ小さく視える場所まで来たところで足を止めた。 『この辺りで良いかな、』 言いながら更に数歩、進んだ彰司は長めの髪をひとつに結わく。 その後ろ姿は首元がほっそりとして、続く肩も線が細い。 こうして視てると、背格好がどことなく英海(ひでみ)に似ている。 そんな事を考えながら彰司を視てると、ふと振り返り、私に向かってこう聞いてきた。 『ねぇ、大ちゃん。お姉さんを ”探したい” 、さっきそう言ってたよね。でも、探し出さなくても、ここに呼び出す事も出来る(・・・・・・・・・・・・)。そう、”口寄せ” だ。どっちが良い? 僕はどちらでも構わない。大ちゃんの好きな方で良いんだ、』 うな…………そうね、その方法もあるわよね。 わざわざ探し出さなくたって、口寄せで呼び出せば一発だわ。 わかってる、わかってた、……でも、その方法だと、呼んですぐに顔を合わせる事になる。 もちろん、お姉ちゃんには会いたいよ、会いたいけど会う前に、たっぷりの心の準備が必要なのよ。 出来る事ならコチラから探し出し、気づかれないよう最初は遠くでそっと眺めて、少しずつ近づきたいの。 そうじゃないと、口寄せして呼び出して、開口一発 ”どこの猫?” なんて事を言われたら、私はきっと灰になる。 だから、 『NO、口寄せ! 探す方向でお願いするにゃー!』 万が一にも間違わないよう、大きな声でハッキリ依頼。 すると彰司は、 『分かった!』 そう言って両手両五指、向かいに合わせて絡め始めたのだ。
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