第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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『この先にお姉ちゃんが住んでいる……、』 言われて視線を前に投げれば、延々広がる水田の、さらに向こうにポツリポツリと家があるのが視てとれた。 『大福は優子ちゃんのお友達なの? 私達も仲良しなのよ! 夕方にはおすそ分けを届ける予定があるから、一緒に連れてってあげる! ピピー!』 えぇ! 連れてってくれるの!? う、うなな……ありがたいわ、ありがたいけど緊張しちゃう、 ど、どうしよう……! で、でも、せっかく親切で言ってくれてるし、そ、それに……そうよ、ハッカチョ族のゴチュンにシレッと紛れてしまえばイチニャンくらいは目立たない。 行くだけ行って、ココロの準備が整わなくて……今日はダメ だと思ったら、お姉ちゃんに声を掛けずにそのまま戻ればいい話。 う……うな、良い考えだわ、そうしましょう。 『ありがとう。そうしてもらえるとありがたいわ。夕方に行くのよね? その頃になったら、またこの水田に来れば良いかしら、』 そう尋ねるとハッカチョ族は、 『ピョー! それで良いわ!  あすこに視える双子の山の、その近くまでお日様が沈んだくらいに来てちょうだい。空も田んぼも真っ赤になって、熟した柿色になる頃よ、ピピッ』 遠くの山を羽で指し、丁寧に教えてくれた。 …… ………… ”あとで” と手を振り、お姉ちゃんの家とは反対方向の、東に向かって歩き出す。 目指す場所は特にはないけど、原っぱでもあったら嬉しい。 そこでお花を摘みたいの。 テチテチテチテチ、 しばらくのんびり歩いて行くと……うなー! 原っぱ発見! ツイてるわ! お花! 良いお花はあるかしら! 気持ちが急いて前のめり。 走った途端に四肢がうっかり絡んでしまって、そのままクルンとでんぐり返しで転んでしまった。 『あぁ……もう、一体なにをしてるのかしら。こんなトコ、とてもじゃないけど英海(ひでみ)には視せられない。あの子はとっても心配性で、転ぼうものなら大騒ぎになってしまう。きっと、ベソかきながら癒しの霊力(ちから)を私に使うわ』 独り言ちて独りで笑い、起きようと思ったけれど、考え直して大の字で寝転んだ。 ああ……良い気持ち。 野草はフカフカ、風はソヨソヨ、日差しは優しくポカポカだ。 目を閉じると、湿った土と草の匂い……それと仄かに甘い匂いもしてる。 お花の蜜の匂いだわ。 お姉ちゃんは……なんの花が好きだったかしら? うな……あんまり思い出せないにゃ…… ただ、ただ……これだけは覚えてる。 ____ママ! ユリの花は飾っちゃ駄目よ! ____猫には有害なの、小雪に触らせちゃいけないの! ____ああもう、アジサイもだめよぉ! ____片付けて! ____小雪の具合が悪くなったら大変でしょう? ____ウチは小雪が一番エライの、 ____一番大事にしたい仔なの、 ____だから、ユリもアジサイも大好きだけど、 ____飾っちゃダメなのよ、 好きな花のはずなのに、私の為に飾らないでいてくれた。 いつだって、私を大事にしてくれてたから。
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