第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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うな……うな……! この声……この声は……間違いない、お姉ちゃんの声よ……! お姉ちゃん! お姉ちゃん! 私は此処に……! いる、………………ああ、ダメだわ霊体(からだ)が動かない。 大好きなお姉ちゃん。 声を聞くのは春以来。 待ちくたびれた虹の国、あすこの広い原っぱをアナタは必死に駆けてきた。 ”小雪、小雪” と名前を呼んで、あの時は、少ししゃがれた声だった。 それもそのはず、私が待った年月分だけ年を取り、シワも増えて白髪も増えて、声も年が重なったから。 でも今は? 生きてた頃に一緒にすごしたあの頃の、高めの声に戻ってる。 優しくて、ゆっくりとした話し方。 春夏秋冬、……どの季節でも、眠る時には ”こっちにおいで” と言ってくれたあの声だ。 ああ、もっと声が聞きたいにゃ、 もっとちゃんと顔が視たいにゃ、 もっと近くに、もっとそばに行きたいにゃ、 気持ちは今すぐ駆け出したいのに、四肢が震えてガクガクしてる。 そんな中、どうにかこうにか頑張って、這うように前に進んで玄関近くのおしろい花の、陰に霊体(からだ)を寄せたのよ。 ヨシ……お姉ちゃんもハッカチョ族も気づいてない。 此処に隠れて、コッソリ顔を…………あ、 言葉が……出なかった。 ラッパみたいなおしろい花の隙間から、視上げた先に立っていたのは、遠い過去の記憶の中のお姉ちゃん。 姿は若く、年の頃は20代の真ん中あたりか。 赤みのさしたほっぺがツルツルしてるのよ。 そうかきっと、黄泉に来てから声も含めて ”若返りの再構築” をしたのだわ。 この時私は____ 僅かばかりの希望を抱いてしまったの。 姿形が戻ったならば、記憶も多少は戻っているかもしれないと、……ああだけど、本当は分かってる。 それとこれとは話が別で、容姿は容易に変えられるけど、(ひと)の記憶は下手に干渉出来ないの。 分かっているのに、それでも希望が捨てきれなかった、……が。 『そう言えば……(キョロキョロ)大福がまだ来ないわねぇ。ピピィ』 ハッカチョ族のそのうち一霊(いちわ)が辺りを視回しそう言った。 それを聞いたお姉ちゃんは、 『大福さん? ハッカチョ族のお友達の方ですか?』 と小首を傾げ、そんな様子に鳥の子達も首を傾げてこう言った。 『ううん、大福は猫の子よ。優子ちゃんを知ってると言ってたわ。ピピー!』 『そうそう。その猫とは昼間に会ったんだけどね、ピョー!』 『優子ちゃんに会いに行くって言ってたの。ピピピピ!』 『真っ白な猫よ。金目がキレイで尻尾が3本! ピヨピヨピヨ!』 『白い猫、優子ちゃんは知らないの? ピー!』 心臓が跳ね上がる。 聞いてて頭がクラクラしてくる。 ハッカチョ族の質問は、私にとって、それはあまりにデリケート。 でも、お姉ちゃんにしてみたら、訳の分からないものだったようで…… 『私を知ってる……? 白い猫……? ”大福” ……? さぁ……心当りが全然ないわ……』 更に首を傾げつつ、だけどキッパリそう言ったのだ。
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