473人が本棚に入れています
本棚に追加
うな……うな……!
この声……この声は……間違いない、お姉ちゃんの声よ……!
お姉ちゃん! お姉ちゃん! 私は此処に……!
いる、………………ああ、ダメだわ霊体が動かない。
大好きなお姉ちゃん。
声を聞くのは春以来。
待ちくたびれた虹の国、あすこの広い原っぱをアナタは必死に駆けてきた。
”小雪、小雪” と名前を呼んで、あの時は、少ししゃがれた声だった。
それもそのはず、私が待った年月分だけ年を取り、シワも増えて白髪も増えて、声も年が重なったから。
でも今は?
生きてた頃に一緒にすごしたあの頃の、高めの声に戻ってる。
優しくて、ゆっくりとした話し方。
春夏秋冬、……どの季節でも、眠る時には ”こっちにおいで” と言ってくれたあの声だ。
ああ、もっと声が聞きたいにゃ、
もっとちゃんと顔が視たいにゃ、
もっと近くに、もっとそばに行きたいにゃ、
気持ちは今すぐ駆け出したいのに、四肢が震えてガクガクしてる。
そんな中、どうにかこうにか頑張って、這うように前に進んで玄関近くのおしろい花の、陰に霊体を寄せたのよ。
ヨシ……お姉ちゃんもハッカチョ族も気づいてない。
此処に隠れて、コッソリ顔を…………あ、
言葉が……出なかった。
ラッパみたいなおしろい花の隙間から、視上げた先に立っていたのは、遠い過去の記憶の中のお姉ちゃん。
姿は若く、年の頃は20代の真ん中あたりか。
赤みのさしたほっぺがツルツルしてるのよ。
そうかきっと、黄泉に来てから声も含めて ”若返りの再構築” をしたのだわ。
この時私は____
僅かばかりの希望を抱いてしまったの。
姿形が戻ったならば、記憶も多少は戻っているかもしれないと、……ああだけど、本当は分かってる。
それとこれとは話が別で、容姿は容易に変えられるけど、霊の記憶は下手に干渉出来ないの。
分かっているのに、それでも希望が捨てきれなかった、……が。
『そう言えば……(キョロキョロ)大福がまだ来ないわねぇ。ピピィ』
ハッカチョ族のそのうち一霊が辺りを視回しそう言った。
それを聞いたお姉ちゃんは、
『大福さん? ハッカチョ族のお友達の方ですか?』
と小首を傾げ、そんな様子に鳥の子達も首を傾げてこう言った。
『ううん、大福は猫の子よ。優子ちゃんを知ってると言ってたわ。ピピー!』
『そうそう。その猫とは昼間に会ったんだけどね、ピョー!』
『優子ちゃんに会いに行くって言ってたの。ピピピピ!』
『真っ白な猫よ。金目がキレイで尻尾が3本! ピヨピヨピヨ!』
『白い猫、優子ちゃんは知らないの? ピー!』
心臓が跳ね上がる。
聞いてて頭がクラクラしてくる。
ハッカチョ族の質問は、私にとって、それはあまりにデリケート。
でも、お姉ちゃんにしてみたら、訳の分からないものだったようで……
『私を知ってる……? 白い猫……? ”大福” ……? さぁ……心当りが全然ないわ……』
更に首を傾げつつ、だけどキッパリそう言ったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!