第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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ハッカチョ族の大きな声は、月まで届く通る声。 当然、月より近い地上では、聞こえぬ(もの)などいなかった。 『え!? 大福!? 来たの? どこ? ピピー!』 『ココよココ! 地面に伏せてペタンとなってる! ピョー!』 『ホントだ! いた! なにしてるのよ? かくれんぼ? ピピピッ』 『目印分かってくれたのね! 置いてっちゃってゴメンピョー!』 『あ、優子ちゃんいるわよ! ねぇ、優子ちゃん! この子が大福! ピッ!』 ああ、もう! 大騒ぎにしないでちょうだい! 私はコソッと帰るつもりで、視つからないようしてたのに! 鳥の子達の大合唱で、お姉ちゃんにも気付かれた。 お姉ちゃんは玄関先からニ三歩前に出てくると、そのまま視線を下げてきた。 あ……目が、合ってしまった。 草の上から視上げた顔は、優しいけれど小首を傾げて訝しそう。 無理もないか……今の私は夜の地面に這いつくばって、肉球に汗を掻いてるマヌケな猫だ。 視られるほどに心細くなってくる。 しばらくそうして目線を合わせ、なにも言えずに黙っていると、 『……あの、あなたが大福ちゃん? 私の事を知ってるの?』 おずおずと、本当におずおずとそう聞いた。 それを聞いたハッカチョ族は、相も変わらず大きな声で、 『知ってるわ! だからわざわざ訪ねてきたの! ピピピー!』 私をバンバン撃ち抜いた。 う、うなぁ……悪気がないのは分かるけど、そろそろ限界倒れそう。 ダ、ダメだわ、このままいったらメンタル持たない。 声を上げて、引っくり返って泣いちゃいそうよ。 私が泣いたらお姉ちゃんを困らせる。 うな……それだけじゃないわ。 きっと、よその子にするように(・・・・・・・・・・)、お姉ちゃんは私の事を、ぎこちなく慰めるのだろう。 そんな事には耐えられない。 せめて、ここに立ってる今の間は泣かないように、私は口を噛んでいた。 痛みに気持ちを紛らわせ、この惨めさに負けないように。 だけど、私の気持ちも、私自身も知らない彼女は、こんな事を言い出したんだ。 『大福ちゃん。あなたもしかして、ウチの小雪(・・・・・)のお友達? あなたと同じ、白い毛皮のハムスターなんだけどね、』 ズキ……ズキズキ…… ああ、痛い。 胸が、抉られるように痛い。
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