第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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お……姉ちゃん……? 今、なんて言った……? ____私も昔集めてたけど、 そう、言ったわよね? それからこうとも、 ____千本ちょっとしか集まらなくて、 そう、そうよ。 ヒゲが千本集まった時、”どこに行ったら尻尾と取り換えてもらえるのかな?” って、笑いながら話してた。 取り換えるあてもないのに、それでも拾い集めてた。 アナタはそれを宝物だと言っていた。 もしかして、記憶が戻りかけてるの? ああでも、 ____私……なにを言ってるのかしら、 ____私が一緒に暮らしていたのはハムスター、 ____猫は飼った事がなかったはず、 私との思い出は、ハムスターに塗り替えられてる。 違うのに、私もアナタと過ごしたのに。 お願い、もう少しだけ思い出して。 私の事、私との時間を。 首を傾げるお姉ちゃん。 一点視つめて、なにかを考え込んでいる。 私の胸は爆発しそうにドキドキしてて、今にもどうにかなりそうだった。 『あの……』 声を、かけてみた。 どんな話をしたら良いのか、そんなのぜんぜん分からないけど、それでも声をかけたんだ。   お姉ちゃんは顔を下げると、その場にしゃがんで私と視線を合わせてくれた。 うな……うな……ち、近いにゃ、お姉ちゃんの匂いがするにゃ。 『あ、あの……あの……』 嬉しくて、懐かしくって、言葉がうまく出てきてくれない。 なにか言わなきゃ、出来る事なら思い出してもらいたい。 捨てたはずの淡い期待が再び胸に宿り出す。 『あの……あの……』 情けない、まるで ”借りてきた猫” ね。 私がモジモジしていると、 『ん? なぁに?』 そう言って、頭を撫でてくれたのよ。 その瞬間、胸がぎゅうっと締め付けられた。 細い指、手のひらは温かくって、肌がとってもすべすべしている。 お姉ちゃんは優しく頭を数回撫でて、その後は、耳の後ろをコチョコチョしだす、…………ああ、そうよ。 生きてた頃、いつもこうして頭と耳をセットで撫でた。 私はそれが大好きで、気持ち良くって心地よくって安心したの。 ねぇ、思い出して、私を思い出して。 湾曲された手のひらの中。 滲む涙を視られぬように、頭を押し付けこすっていると、ゴロロゴロロと喉が自然に鳴り出した。 これも昔とおんなじだ。 喉が鳴るとアナタは毎回、 ____小雪が嬉しいと私も嬉しい、 そう言って笑ってくれた。 ねぇ、久しぶりに笑って、”私も嬉しい” って言ってよ。
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