第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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瞬きも、息する事さえ放棄して、望む言葉を縋る思いで待っていた。 待ってる間も喉は鳴り、地面に着いた四肢がかすかに震えてる。 お姉ちゃんは喉の音に気が付くと、私を撫でる手を止めた。 『さっきからこの音……もしかして、大福ちゃんの喉の音?』 聞かれた私はコクッと頷き、顔を上げるとお姉ちゃんと近い距離で目が合った。 ゴロロ……ゴロロ……ゴロゴロゴロゴロ 音はますます大きくなって、しばしの無言を埋めていく。 お姉ちゃんは私を視たまま、なにかを考え込んでいる。 ゴロゴロゴロゴロ……ゴロゴロゴロゴロ…… お姉ちゃん、黙ったままだ……思い出しているのかな。 どこかに落とした記憶の欠片を視つけて拾って、繋ぎ合わせているのかな。 ゴロゴロゴロ……ゴロゴロゴロゴロ…… 頭の上に置かれたままの手のひらは、温かくってすべすべだけど、撫でる事なく止まったままだ。 思案の表情(かお)も固まって、……笑ってほしいと思うのに、たったの一言 ”私も嬉しい”、その言葉がほしいのに、望みはどちらも叶わないまま時間だけが過ぎていく。 ゴロゴロ……ゴロゴロゴロ…… ねぇ、笑ってよ、 ゴロロ……ゴロゴロ…… ”嬉しい” って言ってよ、 ゴロゴロ……ゴロ…… ”小雪” って呼んでよ、 ゴロ……ゴロ……、 結局。 お姉ちゃんはなにかをずっと考え込んで、だけど、その答えは出ないままだった。 『私……なにか大事な事を忘れてる気がするの……でも、考えても考えてもそれがなんだか分からなくって……』 …… ………… ………………そっか、 …………思い出せないか、 ううん、良いの。 思い出せなくても、それがなんだか分からなくても、アナタはそれを ”大事な事” だと言ったんだもの。 記憶の欠片が繋がる事はなかったけれど、でも、……でも…………そうよ、これ以上望んだらバチが当たるわ。 本当は、虹で会ったあの日が最後で二度と会えないはずだった。 なのに会えた、頭を撫でてもらえた、それだけで満足しなくちゃ。 思い出してもらえなくても、”小雪” と呼んでもらえなくても、アナタの中に私がいなくても、それでも、それでじゅうぶn____ ____ダッ!! 気付いた時には走り出していた。 満足しなくちゃいけないはずが耐えられなかった。 こみ上げて、目の前で泣き出しそうで、とてもじゃないけど強くなんかいられなくって逃げ出したんだ。
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