第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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ピーピー! vs うななー! とっ散らかったこの状況。 とにかく私は早く此処から逃げ出したくてたまらなかった。 それなのに、ハッカチョ族は容赦がない。 寄ってたかって羽でバサバサ(羽だから痛くはない)、『逃がさない』だの『泊まっていけ』だの『面倒だからウチに住め』だの話がどんどん飛躍する。 『ちょ! 待って! せっかち! は、羽ぇ! くすぐったぁ!』 どうしたもんかと焦っていた時だった。 遠くの方からザッザッザッという足音と、かすかな声が聞こえてきたの。 走っているのかハァハァと息を切らしたその声は、時々途切れてなんだかとっても苦しそう。 最初はハッキリ聞こえなかった……が、夜風に紛れたその声は、だんだん近づき大きくなって、そしてとうとう、声の主が此処まで走って目の前に立ったんだ。 現れたその(ひと)は、お姉ちゃんだった。 走ったせいか長い髪は振り乱れ、背中を丸めて息を切らして苦し気だけど、それでも、力強く顔を上げると震える声でこう言ったんだ。 『こ、こらーーー! そ、そ、その猫ちゃんからはなれろーーー! わ、悪いカラスめ! ど、どっか行け! 猫ちゃんをいじめるなーーー!』 …… …………それを聞いた時、 私は石のように動けなくなった。 遠い遠いいつかの昔。 まだ私が生きていた頃、まだ私が生まれて間もない頃。 お母にゃんとはぐれた私はカラスの群れに襲われた。 あの時とおんなじ言葉……、必死な声……、聞き間違いじゃない……! お姉ちゃんの剣幕に、ハッカチョ族は『い、いじめてないピョ!』と大いに焦って後ろに下がった。 その瞬間、 『こっちにおいで!』 お姉ちゃんは震える両手で私を抱きしめ、地面の上に蹲ったのだ。
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