第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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お姉ちゃん、お姉ちゃん、……汚れちゃうよ。 人の子は土の上に伏せたりしない。 それなのに、伏せるアナタは腕も足もスカートだって泥だらけ。 あの時とおんなじだ。 私もアナタも幼くて、アナタだって怖いだろうに、それでも私を助けてくれた。 あの時とまったく一緒。 地面の上で背中を丸めて団子になって、その真ん中に私を隠して震えてる。 ああ……まるで夢でも視ているみたい。 私にかぶさるアナタの温もり。 身動きひとつ取れないくらいに私を抱える細い腕。 アナタの息がかかるくらいの近い距離。 懐かしくて安心出来るアナタの匂い。 初めて出会ったあの日がそのまま再現されて、胸が詰まって苦しいくらいに気持ちが昂る。 たとえ私を覚えてなくても、こうやって来てくれたのが嬉しくて泣きたくて、どうにかなってしまいそう。 ………………だけど……、 なんだか少し様子がおかしい。 ハッカチョ族は優しい鳥達。 確かに私を追いかけたけど、それはよかれと思った事だ。 決して私にイジワルするよな嫌な鳥ではないというのに、お姉ちゃんは私以上にそれを知ってるハズなのに、 『わ、悪いカラスめ、ダイジョウブだよ、私が守ってあげるから』 何度も何度もうわ言みたいに繰り返してる。 それと……さっき私は驚きすぎてそこに気づいてなかったけれど、お姉ちゃんはハッカチョ族を迷う事なく ”カラス” と呼んだ。 理由はハッキリ分からない……だけど、今の行動を合わせてみても、やはりカラスと間違えてるんだ。 どうして……? 姿や大きさが似てるから? 泥んこだらけで黒いから? 夜に紛れてそう視えたから? それにしたっておかしいわ……元々仲が良さそうなのに、寸前までは仲良く話をしてたのに……変よ、間違えようがないじゃない。 …… …………まさか ………………これは仮定にすぎないけれど……記憶が戻りかけている……? お姉ちゃんは言っていた。 昔私を助けた時。 カラスの群れにお姉ちゃんも襲われて、それ以来カラスが苦手になったのだと。 幼い頃の怖い思いは今も尚、強烈に心の奥に刻まれているとしたら…… それとよく似たこの状況が、失くしたはずの記憶の欠片を手繰り寄せているとしたら………… ”あの日” が再現されている今、お姉ちゃんは私をなんと呼ぶのだろう。
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