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死して動かぬ心臓が、うるさいくらいに騒いでる。
耳が鳴り、四肢は震えて止まらない。
お姉ちゃんはさっきと変わらず私を抱えて動かないまま。
中から視ると、お姉ちゃんの細い腕の僅かな隙間に泥の羽が視てとれる。
ハッカチョ族は訳が分からず戸惑って、いつもと違う友の様子に右往左往でザワついていた。
ごめんね、巻きこんじゃてごめんね。
あとで事情を説明するから、それまで少し待っててね。
お姉ちゃんは、私以上に震えていた。
私を庇って被さるだけが精一杯で、立ち上がって逃げ出す事も、声を上げて戦う事も、どっちも出来ないままでいる。
ああ、あの時と同じだわ。
____ダ、ダイジョウブだよ、私がまもってあげるから、
勇ましくそう言って、だけどアナタはカラスが怖くて泣いてしまった。
今夜のアナタもおんなじ事を私に言うの。
『だ、大丈夫だよ、私が守ってあげるから、』
勇ましくそう言ったけど声は酷く震えてる、鼻をすすってグズグズとして、ここからでは顔はちゃんと視えないけれど、きっとアナタは怖くて泣いてる。
____こわがらなくていいよ、おなかの下にかくれてて、
細い手足を柱代わりにお腹の下に作った空間。
私を守る為の空間。
そこに私を押し込めて、自分だって怖いクセにそう言ったよね。
やっぱりこれもおんなじだ。
『怖がらなくて良いよ。お腹の下に隠れてて、』
細い手足が柱代わりの空間は、あの頃よりも随分大きくなったみたい。
また此処で守ってもらえる日が来るなんて思わなかった、……そう、ああ……そうよ、夢にも思わなかったんだ。
お姉ちゃん、嬉しいよ、
お姉ちゃん、泣きそうだよ、
お姉ちゃん、お腹の下があったかいにゃ、
お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん…………私は、頭の中で ”お姉ちゃん” と何度も呼んだ。
呼んで呼んで、呼び続けたら、いつしかそれは溢れてしまった。
溢れた言葉は心の中から喉を通ってそして口から、
『…………お姉ちゃん、』
空気と一緒に漏れたんだ。
それに対してお姉ちゃんは、
『なぁに、怖い? 大丈夫だよ』
伏せた顔をこちらに向けて優しく言った。
目が合って、細い腕が少し動いて私の頭を小さく撫でる。
私はそれが嬉しくて、何度も何度も瞬きをして ”好き” の気持ちを伝えたの。
猫を飼った事すら忘れたお姉ちゃん、きっと意味は通じないけどそれでも私は瞬いた。
お姉ちゃんは不思議な顔で私を視てた。
だけどその後、頭を撫ぜる手指が横に移動して、私の耳の後ろをコチョコチョし始めたんだ。
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