第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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うな……気持ちが良い。 撫でる時は頭と耳はいつでもセット。 こうして何度も撫でてくれた思い出が、ゴロロゴロロと私の喉を再び鳴らした。 『ゴロゴロゴロ……』 『喉が鳴ってる、』 『ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……』 『……なんだかとても良い音ね、この音……昔もどこかで聞いたような気がするわ……』 『ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……』 『どこだったかしら……』 お姉ちゃん、お姉ちゃん、聞いたのはオウチだよ。 お姉ちゃんの部屋は二階で、大きな窓とフカフカのベッドがあった。 私達は毎日そこで一緒に寝たの。 私はそれが幸せで、毎日毎日喉を鳴らして、お姉ちゃんは喉の音が大好きだと言っていた。 『ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……』 『……喉の音……真っ白な毛皮……まるで雪みたいだわ……とっても綺麗』 うな……うな……そうよ、昔もアナタは言ってくれた。 私の毛皮が綺麗だと、真白な雪に似ていると。 『ゴロゴロ……ゴロゴロゴロ……うな……うなな』 『”うなな”……って……ふふふ、変わった鳴き声ねぇ。猫は ”ニャーン” と鳴くんでしょう?』 うな……懐かしい。 お姉ちゃんにまた笑われた。 私は普通に鳴いてるつもり、でも、お姉ちゃんは ”うなうななんておかしいの” って笑ったの。 そして、笑って笑って私を抱きしめ、”可愛い仔” とも言ってくれた。 『…………うな、うなななな、うなななぁん』 『やだぁ、おかしいの。”うなうな” ばっかり』 『うなななっ、うなぁん。うななななな……うなっ、』 『もう、猫なら ”ニャーン” と言いなさい。変な鳴き声、……でも可愛い仔、ふふふ……可愛い、本当に可愛いわ、………………あれ? 私……私……こんな事が前にも……薄っすらだけど覚えてる、”うなうな” という鳴き声も、喉の声も、変なのに、おかしいのに、……でも、世界で1番可愛い声だと思ってて、それで、それで、………………』 お姉ちゃん? なにか思い出しそうなの? 記憶が戻りそうなの……だとしたら思い出してよ……! お願い、お願いだから……! お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん! 私は……私は……! 『うなっ! うなななななな! うなぁ! うなぁ! うなぁぁ!』 『わっ! 急にどうしたの!? え? ”思い出して” ってなにを? なにを思い出せば良いの? わ、私は、…………あ……あれ……? な、なんで私、この仔の言いたい事が分かるんだろう……? あれ……? あれ……?』 そうよ、私の言葉を理解出来る人の子は、この世とあの世を合わせてもたったの2人、英海(ひでみ)と、お姉ちゃんしかいないのよ! 私よ……! お願い……! お願いだから思い出して! 名前を呼んで、私の名前を、私の名前は……! 『うなぁぁぁ! うなな! うなぁぁ! うな……うな……うなぁ……うなぁぁぁん!』 あえて人語は話さなかった。 ”うなうな” とただそれだけで訴えて、これでだめなら、伝わらないなら、私は、 お姉ちゃんは、ゆっくりと霊体(からだ)を起こし、湿った地面にペタンと座り込んだまま、私の顔をジッと視た。 目が合って、私は ”好き” の気持ちを伝える為に、何度も何度も瞬いたんだ。 お姉ちゃんはそんな私に戸惑いながら、ぎこちない瞬きを返してくれた。 確かめるように、何度も、何度も。 …… ………… 何度目の瞬きだっただろう。 閉じて開いて、閉じて開いて、その後、もう一度閉じた時。 お姉ちゃんの両目から涙がボタボタ落下して、そして。 『……………………あ……あ……あんた……小雪なの?』 そう言って私を強く抱きしめたんだ。
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