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◆
それから____
畑のあぜ道、湿った土と夜露の野草。
その上にへたり込み、私とお姉ちゃんは泣きながら抱き合った。
お姉ちゃんは苦しいくらいに私を抱いて、私も私で爪を立ててしがみつく。
泣いても泣いても泣き足りない。
悲しくて、苦しくて、何度も何度も諦めかけて心が折れて、…………でも、今となってはどうでも良い。
こうして感じるアナタの体温、アナタの匂い、”小雪” と名を呼ぶ震える声が、すべての辛さを溶かしてしまった。
……
…………
そして、ハッカチョ族はやっぱり優しい鳥達だった。
彼らに事情を説明すると、
『そ、そういう事だったのね……ピピィ……!』
『大福……頑張ったわね……ピョォ……!』
『優子ちゃんもそんなに泣いて……グズグズ……ピピ……』
『ア、アンタだって泣いてるじゃない、ピエェェン』
『そら泣くわぁぁ……! ピワァァン!』
みんなワンワン泣いてしまった。
いつまでたっても泣き止まないハッカチョ族は、帰る時まで鳴きっぱなしで泣きっぱなし。
”またね” とバサバサ羽を振り、トッと地を蹴り飛び立つ彼らを視送ると……月夜の空から涙の雨が降ってきた。
月の光を含んだ雨は青くてキラキラ、まるで夢を視てるみたい。
夢ならこのまま覚めないで……と、願ったすぐ後、お姉ちゃんが小さな声でこう言った。
『小雪、オウチに帰ろう』
私を抱く手は力が籠り、近い距離で目が合えば、アナタの頬にも青い雨が一筋流れる。
それを私はザリンと舐めて『……うな』と一言頷いた。
お姉ちゃんは私を胸に抱きしめたまま、来た道を歩き出す。
生きてた頃とおんなじように、忘れる前とおんなじように、大事に、落とさないように、痛くないように、慈しむように。
やがて家に辿り着き、お姉ちゃんは慣れた様子で玄関の扉を開けた。
その瞬間、一気に涙が込み上げた。
この匂い、ぜんぶぜんぶ覚えてる。
懐かしい匂い、大好きな匂い……お姉ちゃんと、お母さんと、お父さんの匂いだ。
ああ……それと、ハムスターの小雪の匂いも混ざってる。
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