第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

51/80
前へ
/370ページ
次へ
◆ それから____ 畑のあぜ道、湿った土と夜露の野草。 その上にへたり込み、私とお姉ちゃんは泣きながら抱き合った。 お姉ちゃんは苦しいくらいに私を抱いて、私も私で爪を立ててしがみつく。 泣いても泣いても泣き足りない。 悲しくて、苦しくて、何度も何度も諦めかけて心が折れて、…………でも、今となってはどうでも良い。 こうして感じるアナタの体温、アナタの匂い、”小雪” と名を呼ぶ震える声が、すべての辛さを溶かしてしまった。 …… ………… そして、ハッカチョ族はやっぱり優しい鳥達だった。 彼らに事情を説明すると、 『そ、そういう事だったのね……ピピィ……!』 『大福……頑張ったわね……ピョォ……!』 『優子ちゃんもそんなに泣いて……グズグズ……ピピ……』 『ア、アンタだって泣いてるじゃない、ピエェェン』 『そら泣くわぁぁ……! ピワァァン!』 みんなワンワン泣いてしまった。 いつまでたっても泣き止まないハッカチョ族は、帰る時まで鳴きっぱなしで泣きっぱなし。 ”またね” とバサバサ羽を振り、トッと地を蹴り飛び立つ彼らを視送ると……月夜の空から涙の雨が降ってきた。 月の光を含んだ雨は青くてキラキラ、まるで夢を視てるみたい。 夢ならこのまま覚めないで……と、願ったすぐ後、お姉ちゃんが小さな声でこう言った。 『小雪、オウチに帰ろう』 私を抱く手は力が籠り、近い距離で目が合えば、アナタの頬にも青い雨が一筋流れる。 それを私はザリンと舐めて『……うな』と一言頷いた。 お姉ちゃんは私を胸に抱きしめたまま、来た道を歩き出す。 生きてた頃とおんなじように、忘れる前とおんなじように、大事に、落とさないように、痛くないように、慈しむように。 やがて家に辿り着き、お姉ちゃんは慣れた様子で玄関の扉を開けた。 その瞬間、一気に涙が込み上げた。 この匂い、ぜんぶぜんぶ覚えてる。 懐かしい匂い、大好きな匂い……お姉ちゃんと、お母さんと、お父さんの匂いだ。 ああ……それと、ハムスターの小雪の匂い(・・・・・・・・・・・)も混ざってる。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

473人が本棚に入れています
本棚に追加