第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

52/80
前へ
/370ページ
次へ
◆ その日の夜は家族みんなでご飯を食べた。 お姉ちゃんとお母さんとお父さん、それからハムスターの小雪も一緒だ。 お姉ちゃんが家に私を連れて帰った先刻。 リビングではお母さんとお父さんがお茶を飲んでいた。 生きていれば100才近い年齢(とし)だけど、今の視た目はいってもせいぜい40代。 現世で一緒に住んでた頃の……懐かしいあの頃の姿だ。 お母さんとお父さんは私を視るなり固まった。 持ってる湯飲みもそのままに、私の事をジイッと視つめて口をパクパクさせたのよ。 あまりにそれが長いから……もしかして、二霊(ふたり)も私を忘れてしまって、知らない猫がやってきたと思われてるのか、そんな風に思ったの。 刺さる視線が居心地悪くて、目線を逸らして俯いてると、 『ゆ、優子……その猫は……こ、小雪だよな?』 お父さんが掠れた声でそう言ってお姉ちゃんが頷くと、そのすぐ後にお母さんがこう言ったのよ。 『やっぱり小雪だ……ああ……会いたかった、ずっと心配してたのよ……黄泉(こっち)に来ればすぐに会えると思っていたのに会えなくて、優子は小雪を忘れてしまうし……心配で心配でたまらなくって……優子……あんた……やっと思い出したのね……昔の事を、小雪の事を……』 それを聞いた時、一気に涙が込み上げた。 すぐに私と分かってくれた、忘れられていなかった、心配までしてくれていた……それが本当に嬉しくてたまらなかった。 大好きなお姉ちゃん、そのお姉ちゃんの次に大好きなお母さんとお父さん。 私はみんなに囲まれて、何度も何度も名前を呼ばれ、何度も何度も撫でられた。 家族みんなで泣きながら、それは実に36年振りの再会だったのだ。 ひとしきり泣いた後、お母さんが張り切ってご馳走を作ってくれた(ヒトの子用と猫用とハムの子用)。 お米はさっきハッカチョ族が届けてくれた新米で、ふっくらツヤツヤ甘味があって美味しいの。 それまで寝ていたハムの小雪は、起きて早々私を視るなり大興奮で駆けてきて、ヨジヨジと霊体(からだ)を登って背中に張り付き離れてくれず。 挙句の果てには背中でゴハンを(ヒマワリの種)食べだした……のだが、なんせハムはチビッ子だから、口の端からゴハンをポロポロこぼしてしまって私の背中は種だらけ(ハムの小雪のヨダレ付き)。 みんなで呆れてみんなで笑って、楽しい楽しい夕食だった。 夕飯を食べ終えて、満腹のハムスターは私の背中で眠ってしまった。 この子は相変わらずね、虹で一緒に住んでた頃もこうだった。 お母さんとお父さんも眠そうで、積もる話は明日にしようとそれぞれの部屋に行く事になった。 お母さんは部屋に行く前、 『小雪、明日は早起きして家族みんなでピクニックに行こう。ここらは自然がいっぱいで、車なんて通ってないから猫でもハムでも安心安全、外でも遊べるわ。これから先、ずぅっと黄泉(ここ)に住むんだもの。近所の道を覚えなくっちゃ。じゃあね、おやすみ。また明日』 私に笑顔でそう言った。 お姉ちゃんはハムスターごと私を抱き上げ、 『さあ小雪達、私の部屋で一緒に眠ろう。明日は早起きだけど……小雪、眠るまでお喋りしようよ。あんたにちゃんと謝りたいし、ギュウッて抱っこもしたいのよ。小雪……小雪、小雪、ああ……ごめんね、ありがとね。もう絶対に離れない、ずっとずっと一緒にいようね』 こう言いながら、2階へ続く階段を上がっていったのだ。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

474人が本棚に入れています
本棚に追加