474人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
カチャリと小さな音をさせ、部屋のドアが開かれた。
中に入ると、…………ああ、お姉ちゃんの匂いでいっぱいだ。
お姉ちゃんは私とハムを抱いたまま、手慣れた様子で電気を付けるとパッと部屋が明るくなった。
視線を飛ばすと大きな窓には薄くて綺麗なレースのカーテン、……生きてた頃にはなかったものだ。
私は昔、カーテン登りが大好きだった。
風に揺れるカーテンを下から見上げて飛びついて、そのままザクザク爪を引っ掛け、頂上のカーテンレールを目指すのよ。
何度ダメだと言われても楽しくってやめられなかった。
特にレースのカーテンは、編み目が爪に引っ掛けやすくて登りやすい。
だからいつでもボロボロだった。
糸がほつれて、そこからビリビリ破けてしまって、……それでも、声を荒げられたり、怒られる事はなかった。
お姉ちゃんもお母さんも、登っているのを見つけるたびに「あぁぁ!」なんて情けない声を上げ、困りながらも私を優しく引き剥がしたの。
そのうちに、レースのカーテンは着けなくなった。
買い換えても買い換えても、私がぜんぶボロくするから家族は途中で諦めて、レースの代わりに窓に直接、レース模様の大きなシールを貼り付けていた。
お姉ちゃんは言ってたな、
____小雪はホントにイタズラだよね、
____カーテンもおちおち付けられないよ、
____でもね、あんたが元気ならそれで良いんだ、
____長生きしてね、
____カーテンなんかいらないから、
と、…………そんな、昔の事を思っていると。
シャッ、
私とハムをベッドに降ろして綺麗なレースを横に引く。
お花の模様は整って、どこにも破れは視当たらない。
最初のコメントを投稿しよう!