第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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◆ カチャリと小さな音をさせ、部屋のドアが開かれた。 中に入ると、…………ああ、お姉ちゃんの匂いでいっぱいだ。 お姉ちゃんは私とハムを抱いたまま、手慣れた様子で電気を付けるとパッと部屋が明るくなった。 視線を飛ばすと大きな窓には薄くて綺麗なレースのカーテン、……生きてた頃にはなかったものだ。 私は昔、カーテン登りが大好きだった。 風に揺れるカーテンを下から見上げて飛びついて、そのままザクザク爪を引っ掛け、頂上のカーテンレールを目指すのよ。 何度ダメだと言われても楽しくってやめられなかった。 特にレースのカーテンは、編み目が爪に引っ掛けやすくて登りやすい。 だからいつでもボロボロだった。 糸がほつれて、そこからビリビリ破けてしまって、……それでも、声を荒げられたり、怒られる事はなかった。 お姉ちゃんもお母さんも、登っているのを見つけるたびに「あぁぁ!」なんて情けない声を上げ、困りながらも私を優しく引き剥がしたの。 そのうちに、レースのカーテンは着けなくなった。 買い換えても買い換えても、私がぜんぶボロくするから家族は途中で諦めて、レースの代わりに窓に直接、レース模様の大きなシールを貼り付けていた。 お姉ちゃんは言ってたな、 ____小雪はホントにイタズラだよね、 ____カーテンもおちおち付けられないよ、 ____でもね、あんたが元気ならそれで良いんだ、 ____長生きしてね、 ____カーテンなんかいらないから、 と、…………そんな、昔の事を思っていると。 シャッ、 私とハムをベッドに降ろして綺麗なレースを横に引く。 お花の模様は整って、どこにも破れは視当たらない。
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