第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

54/80
前へ
/370ページ
次へ
『小雪、ちょっと待っててね、』 カーテンを閉めたあと、お姉ちゃんは私に振り向きそう言った。 そして今度はハムの子に、 『小雪(こゆ)……ああ、寝ちゃったか……しょうがない、このまま寝床に寝かせよう』 囁くようにそう言って、……お手製だろうか? 竹で組んだ立派なケージにハムの小雪を寝かせたの。 寝床には柔らかそうな藁が敷き詰められている。 それだけじゃない。 竹で出来た回し車と滑り台、あと、キレイなお水もちゃんとあるんだ。 私はそれを横目で視ながら、ベッドの上でお姉ちゃんが来るのを待った。 彼女はササッとパジャマに着替え、髪をとかしてお化粧水をつけようとした。 けれどそれを途中で止めて、私の隣に寝転んだ。 『あぶないあぶない、うっかり化粧水をつけるトコだった。小雪は昔、私が化粧水とかクリームをつけるたんびに舐めに来たからねぇ。食べ物じゃないし、そんなの舐めたら霊体(からだ)に悪いし、だから小雪が生きていた頃は、夜に化粧水は使わなかった。おかげで夏でもカサカサだったよ。でも良いんだ。カサカサするより小雪になにかある方が大変だもの。…………小雪、ごめんね。あんたの事、忘れててごめんね。会いに来てくれてありがとね、私、……私、』 ゴロンと横向き、お姉ちゃんは赤い目をして私を視つめてそう言った。 うな……そうだったわね。 お姉ちゃんが顔になにかをつけるたび、どうしてわざわざそんな物をつけるのかが不思議だった。 ヘンな物をつけている、私がキレイにしてあげないと、……そう思って一生懸命舐めたのよ。 今となっては化粧水の意味も分かるし、そんな事はしないけど、でも。 私は霊体(からだ)をモゾモゾさせて、お姉ちゃんににじり寄る。 顔が目の前、息がかかるくらいの近さだ。 目が合って、お互いシパシパ瞬きをして、そのまま私は首を伸ばしてほっぺを舐めた。 化粧水はついてないけど、ほっぺも鼻もザリザリと。 お姉ちゃんは『ヒリヒリするよ』と泣き笑い、私をぎゅっと抱きしめた。 この日の夜は朝までずっと、抱き合い寄り添いぐっすり眠りについたんだ。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

474人が本棚に入れています
本棚に追加