第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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『小雪、来てごらん。シロツメ草で冠を作ってあげる。あんたはウチのお姫様(・・・)だからね。可愛いのを作ろう』 お母さんにそう言われた時。 意識をした訳じゃないのに、”お姫” のコトバに私の頭が反応したの。 それによって思い出したのは、 ____お姫、大好き! ____可愛くて優しくてファビュラスでマーベラス! ____好き好き大好き! ____大福は僕の宝物だよ! それは英海(ひでみ)の声だった。 毎日毎日しつこいくらいのいつものコトバ。 私が好きだと、宝物だと繰り返す優しい声、それがオートで再生された。 胸がギュッと締め付けられる、心の奥がザワザワしだして、私は気持ちを落ち着かせる為、必要のない毛繕いをした。 そんな事をしていると……『出来た!』とお母さんの元気な声に引き戻されたの。 お母さんはシロツメ草を器用に編んで、冠を作り終えると私の頭にちょこんとのせた。 そして、少しだけ声を潜めてこう言ったんだ。 『小雪、お姉ちゃんの事許してあげてね。あの子、好きであんたを忘れたんじゃないと思うの』 …………分かってる、認知症だったからでしょう? 『あの子ね、小雪が死んじゃった後、物が食べられなくなっちゃったのよ。毎日泣いて……小雪に会いたい、そればっかりを言ってたの。それで、まともにご飯がたべられなくて仕事にも行けなくなって、結局会社を辞めてしまって1年くらい引きこもってた。それくらい、あんたが死んでショックを受けてたの。私とお父さんももちろん悲しかった。でも……それと同じくらい優子も心配でね、病院に連れて行ったの』 え……………… 『しばらく通って、そこからさらに1年くらいかしら。カウンセリングを受けたり、お話を聞いてもらったりして、ようやくあの子は立ち直ったの。私とお父さんは泣いて喜んだわ……でもね、元気になるのと引き換えに小雪の事を忘れてしまった。写真を見せても思い出せない、それどころか、猫なんか飼った事がないとまで言い出したの』 え……え……… 『原因はハッキリとは分からない……でも、病院の先生が言うには、小雪の事が大事すぎて、失ったショックが大きすぎて、そのせいで記憶がなくなったんじゃないか、自己防衛の1つじゃないかって、……あくまでも推測だけどそう言われた。だからあの子を許してあげてほしいんだぁ。優子は決して、小雪がキライで忘れたんじゃない。大好きだからこそ忘れてしまったの、……って、こんな事を小雪に言っても分からないか。……ん、でも、これからずっと一緒にいれば、だんだんと分かってくれるかな……そうだといいなぁ』 ……………………ああ、そうだったの、 そういう事だったの…………………… お姉ちゃんが私を忘れたのは、認知症が原因じゃなかったんだ。 もっと前に、私が死んだその後に忘れたんだ。 その理由は……お母さんが言った通り、ああ……そうだったの、私を嫌いになった訳じゃない、私の事が大好きだから、だからこそ、私が死んで耐えられなかったんだ。
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