第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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◆ 楽しい楽しいピクニックから二週間が過ぎた。 私は変わらず黄泉にいて家族と一緒に暮らしている。 毎日が……夢みたいだ。 生きてた頃のあの幸せが此処にある。 命が終わって虹の国に渡った後の数十年。 来る日も来る日もこんな日を待ち望み、仲間の主が迎えに来るたび、次は私と期待に胸を膨らませていた。 だけど、…………やっとの事でお姉ちゃんが迎えに来たと思ったら、私の事は存在ごと忘れてしまって素通りされたの。 あの時、虹の役人から聞いたのはお姉ちゃんの病気の事で…… ____彼女は享年63才、 ____しかも亡くなる数年前から痴呆の症状が出ていました、 ____きっとそうでなければ小雪さんの事、 ____忘れたりしなかったでしょうね、 私はそれをすっかり信じ込んでいた。 だけど本当は違ったの。 真実はもっと前から私を忘れて……ああ、でも、その理由は私を愛していたからこそで、忘れてなければ彼女自身が潰れてた。 だからそれは仕方がないと思うけど、欲を言うならもっと早くに知りたかった。 知っていれば、あんなに辛い思いをしないで済んだのに。 ……うな……分かってる。 過ぎてしまった過去に対して ”たられば” は意味がない。 あの役人も嘘をついたつもりはなくて、本当に病気のせいだと思っていたに違いない。 だって、権限が違うもの。 死した人の一生涯を視る事が出来るのは【光道開通部】のオペレーターだけ。 虹の国の役人は動物の過去は視れても人の子の過去は視れない。 その権限を持っていない。 最低限、命が尽きたその日から遡った数年間が良いところ。 役人(かれ)はきっと落ち込む私を慰める為、自分が知ってる限られた情報(もの)の中から、”忘れられた事実” に対してどうにか理由を視つけだしてくれたんだ。 優しさに感謝こそすれ、恨むつもりは毛頭ない。
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