第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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ある日の午後の部屋の中。 お姉ちゃんはハムの寝床を整えていた。 私とハムはベッドの上でゴロゴロしながら、そんな様子を眺めていたの。 窓からそそぐ日差しは明るく、そよぐ風はカーテンを揺らしてる。 優しくて平和な時間だ。 お姉ちゃんは作業が終わると立ち上がり、そのまま真っすぐベッドに来ると腰を下ろして私達を撫でたのよ。 『小雪、小雪(こゆ)、今日も楽しいねぇ。お姉ちゃん、あんた達がいてくれて本当に幸せだよ』 囁くような小さな声。 口元は綻んで、目には愛情が溢れている。 お姉ちゃん、お姉ちゃん、私も幸せだよ。 大好きな(ひと)だもの、会いたくて会いたくてたまらなかった(ひと)だもの。 『ずっと一緒にいようね。この家で、お父さんとお母さんと小雪と小雪(こゆ)で仲良く暮らすの。それでいつか、ずっと先の未来になったら、私の子供と孫達もやって来る。そしたらもっと賑やかになるね。楽しみだなぁ』 お姉ちゃんはそう言うと私とハムを抱きしめた。 お姉ちゃんの描く未来に私がいる、……それはとっても嬉しい事のはずなのに、私の胸はズキンと痛んでモヤモヤしたんだ。 頭の中で声が聞こえる、お姉ちゃんと同じくらいに優しい声。 ____大福は僕の宝物だ、 ____一生大事にするからね、 ____生きてる間もその後もずっと、ずーーーっと! ____お姫は僕の天使だね、 ____大大大好きー! 毎日毎日飽きもせず、思い出すと笑ってしまう。 英海(ひでみ)はとっても優しい子。 イチニャンぽっちで現世に着いた春の日に、あの子が私を視つけてくれた。 生者のクセに私にふれて私を抱きしめ、”僕の部屋で暮らさない?” と連れて帰ってくれたんだ。 あの時、英海(ひでみ)の身体が泣きたくなるほど温かくって、その温もりに私の心は救われた。 思えばあの子がお姉ちゃんに会いに逝けと言ったんだ。 自分から言ったのに、視送る時には目と鼻を真っ赤にさせて、 ____大福……絶対帰ってきてね、 そう言って私の頭を嗅いでいた。 英海(ひでみ)は今頃なにをしているのだろう。 仕事はちゃんとやれているかしら。 あの子は霊力(ちから)が強いけど、お人好しが過ぎるのよ。 私がいない現場で1人、悪霊にコロッと騙され酷い目にあっていたらどうしよう。
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