第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

62/80
前へ
/370ページ
次へ
『……彰司』 名前を呟き固まった。 どうして此処に? 一霊(ひとり)で来たの? 佐知子は? 白雪は?  ううん、来たらヤダとかそう言う事では勿論ない。 ただ、彰司は私と友達だけど、お姉ちゃんとハッカチョ族とは面識ないし、性格的にも連絡無しに突然来るのはらしくないと思ったの。 なのにわざわざ来たって事は……まさか、英海(ひでみ)になにかあったのかしら…………嫌な予感に逆毛が立った。 彰司に話を聞かなくちゃ、そう思ったのとほぼほぼ同時。 『小雪、どうしたの? あちらの方を知ってるの?』 お姉ちゃんが私を抱き上げそう聞いたんだ。 その直後、 『あらー! 視たコトのないヒトの子ねぇ! ピピィ!』 『そんなトコロに立っていないで、ピョォ!』 『コッチにいらっしゃいよー! ピピピピ!』 『優子が焼いた美味しいクッキーがあるの! ピャー!』 『一緒に食べましょうよぉ! ピピーッ!』 ハッカチョ族がやいのやいのと騒ぎ出す。 それに対して彰司は軽く頭を下げつつこう言った。 『みなさん、お集りの所をおじゃまして申し訳ありません。私はミセレイニアスに住む瀬山彰司と申します。今日はそちらの大、……いえ、小雪ちゃんに用事があって来たんです。少しだけ小雪ちゃんをお借りしてもよろしいですか?』 彰司はあくまで礼儀正しく、でも、有無を言わせぬ何かがあった。 そんな空気に感じるものがあったのか、お姉ちゃんは返事を躊躇い警戒している。 私を抱く手に力が入って黙ったままだ。 それでも彰司は辛抱強く待っていた。 私は霊体(からだ)を斜めに捻り、お姉ちゃんの顔を視上げて頼んだの。 『うなななな、うななな……うな! うなななな、うなうな……うなな!』 ____彰司は私の友人だから心配ないわ、話をさせて、お願い、 私は必死に訴えた。 途中で彰司も『お願いします』と繰り返し、お姉ちゃんはやっとの事で私の霊体(からだ)を離してくれた。 彰司は深々頭をさげると、 『ありがとうございます。無理を言ってすみません。すぐに戻ってきますので、少しだけ小雪ちゃんをお借りします』 今度は彰司が私を抱き上げ、踵を返すとそのまま真っすぐ歩き出す。 テクテクとしばらく歩き、お姉ちゃんもハッカチョ族も視えなくなったあぜ道で、ふと、彰司が足を止めた。 そして私を地面に降ろすと彰司もその場に座り込み、目線を近付け切り出した。 『大ちゃん、せっかくお姉さんと過ごしていたのにジャマをしてごめんね。来るかどうか本当に迷ったんだけど……話しておいた方が良いかと思って。私の話を聞いて、その後の判断は大ちゃんに任せる。あのね____』
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

474人が本棚に入れています
本棚に追加