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『……彰司』
名前を呟き固まった。
どうして此処に?
一霊で来たの? 佐知子は? 白雪は?
ううん、来たらヤダとかそう言う事では勿論ない。
ただ、彰司は私と友達だけど、お姉ちゃんとハッカチョ族とは面識ないし、性格的にも連絡無しに突然来るのはらしくないと思ったの。
なのにわざわざ来たって事は……まさか、英海になにかあったのかしら…………嫌な予感に逆毛が立った。
彰司に話を聞かなくちゃ、そう思ったのとほぼほぼ同時。
『小雪、どうしたの? あちらの方を知ってるの?』
お姉ちゃんが私を抱き上げそう聞いたんだ。
その直後、
『あらー! 視たコトのないヒトの子ねぇ! ピピィ!』
『そんなトコロに立っていないで、ピョォ!』
『コッチにいらっしゃいよー! ピピピピ!』
『優子が焼いた美味しいクッキーがあるの! ピャー!』
『一緒に食べましょうよぉ! ピピーッ!』
ハッカチョ族がやいのやいのと騒ぎ出す。
それに対して彰司は軽く頭を下げつつこう言った。
『みなさん、お集りの所をおじゃまして申し訳ありません。私はミセレイニアスに住む瀬山彰司と申します。今日はそちらの大、……いえ、小雪ちゃんに用事があって来たんです。少しだけ小雪ちゃんをお借りしてもよろしいですか?』
彰司はあくまで礼儀正しく、でも、有無を言わせぬ何かがあった。
そんな空気に感じるものがあったのか、お姉ちゃんは返事を躊躇い警戒している。
私を抱く手に力が入って黙ったままだ。
それでも彰司は辛抱強く待っていた。
私は霊体を斜めに捻り、お姉ちゃんの顔を視上げて頼んだの。
『うなななな、うななな……うな! うなななな、うなうな……うなな!』
____彰司は私の友人だから心配ないわ、話をさせて、お願い、
私は必死に訴えた。
途中で彰司も『お願いします』と繰り返し、お姉ちゃんはやっとの事で私の霊体を離してくれた。
彰司は深々頭をさげると、
『ありがとうございます。無理を言ってすみません。すぐに戻ってきますので、少しだけ小雪ちゃんをお借りします』
今度は彰司が私を抱き上げ、踵を返すとそのまま真っすぐ歩き出す。
テクテクとしばらく歩き、お姉ちゃんもハッカチョ族も視えなくなったあぜ道で、ふと、彰司が足を止めた。
そして私を地面に降ろすと彰司もその場に座り込み、目線を近付け切り出した。
『大ちゃん、せっかくお姉さんと過ごしていたのにジャマをしてごめんね。来るかどうか本当に迷ったんだけど……話しておいた方が良いかと思って。私の話を聞いて、その後の判断は大ちゃんに任せる。あのね____』
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