第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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話を終えて、彰司は此処を後にした。 イチニャン残され、私はしばらく動けずにいた。 英海(ひでみ)の事が心配でたまらない。 あの子は彰司の言う通り、霊力(ちから)はあるけどあまりに人が好すぎるの。 悪霊の魂乞いにまんまと騙され反撃されたらどうしよう。 そうよ、持ってるスキルは霊との相互物理干渉、下手をすればケガをしたり、最悪は命を落とす事にだってなりかねない。 ………………うな、だめだわ。 そう考えたら居ても立っても居られない、今すぐにでも飛んで行きたい。 お姉ちゃんも大事だけれど、でも、……でも、英海(ひでみ)は現世で、たった1人で戦っている。 …… ………… ……………… 『……あ、帰ってきた! 小雪、遅かったねぇ、心配したよ、……あれ? 瀬山さんは帰っちゃったの? 瀬山さん……なんの用だったの? ねぇ小雪、向こうで一体なにを話していたの? わざわざ離れた所に行って、……私には言えない事?』 私が戻るとお姉ちゃんは駆け寄って、矢継ぎ早にそう聞いた。 不安気に眉根を寄せて、私を抱き上げ目線を合わせる。 うな……お姉ちゃん、……お姉ちゃん、大好きよ。 生きていた頃、アナタが私を助けなければ、楽しい事も嬉しい事もなにもないまま、とっくの昔に死んでいた。 アナタに拾われ家族になれて、私は毎日幸せだった。 アナタの匂い、アナタの温もり、アナタと眠りアナタと起きて笑い合う。 一時は私を忘れたけれど、それだって、私を愛してくれていたから。 お姉ちゃんは私にとって、母であり姉であり娘でもあり……大事な家族で私の一部と言える(ひと)。 お互いに命が終わり、こうして再びあの頃みたいに一緒にいられて、この数週間、夢のような毎日だった。 いつまでもこうしていたいと思うけど、思うと同時、それがとっても苦しいの。 お姉ちゃんが大好き、……昔も今も ”好き” の気持ちは変わらない。 でも、でもね……私には、お姉ちゃんと同じくらいに大事な人が出来てしまった。 その人は、アナタみたいに良い匂いがして、アナタみたいに温かくって、アナタみたいに優しいの。 虹の国から現世に渡った春の日に、イチニャンぽっちの私を救ってくれた人。 そう、まるで昔のアナタのように、野良の私を助けてくれたの。 その人は今、現世で1人で頑張っている。 そんなあの子を放っておけない、だから私は、私は____ ____お姉ちゃん、ごめんね 『小雪……?』 名前を呼ばれて鼻の奥がズキッと痛んだ。 抱き上げられて近い距離で目と目が合って、お姉ちゃんの瞳の中に私が映り込んでいる。 私はそれをしばらく眺めて目に焼き付けて、そして。 『うなな、うなうn…………お姉ちゃん、……私、もう行かなくちゃ』 ちゃんと意思を伝える為に、ヒトの言葉で言ったんだ。 お姉ちゃんは『え……?』と短く言葉を発して固まった。 抱き上げられる近い距離。 お姉ちゃんの瞳の中に映る私がみるみる歪む。 私はそれを、身を裂かれる思いで視つめていた。
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