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話を終えて、彰司は此処を後にした。
イチニャン残され、私はしばらく動けずにいた。
英海の事が心配でたまらない。
あの子は彰司の言う通り、霊力はあるけどあまりに人が好すぎるの。
悪霊の魂乞いにまんまと騙され反撃されたらどうしよう。
そうよ、持ってるスキルは霊との相互物理干渉、下手をすればケガをしたり、最悪は命を落とす事にだってなりかねない。
………………うな、だめだわ。
そう考えたら居ても立っても居られない、今すぐにでも飛んで行きたい。
お姉ちゃんも大事だけれど、でも、……でも、英海は現世で、たった1人で戦っている。
……
…………
………………
『……あ、帰ってきた! 小雪、遅かったねぇ、心配したよ、……あれ? 瀬山さんは帰っちゃったの? 瀬山さん……なんの用だったの? ねぇ小雪、向こうで一体なにを話していたの? わざわざ離れた所に行って、……私には言えない事?』
私が戻るとお姉ちゃんは駆け寄って、矢継ぎ早にそう聞いた。
不安気に眉根を寄せて、私を抱き上げ目線を合わせる。
うな……お姉ちゃん、……お姉ちゃん、大好きよ。
生きていた頃、アナタが私を助けなければ、楽しい事も嬉しい事もなにもないまま、とっくの昔に死んでいた。
アナタに拾われ家族になれて、私は毎日幸せだった。
アナタの匂い、アナタの温もり、アナタと眠りアナタと起きて笑い合う。
一時は私を忘れたけれど、それだって、私を愛してくれていたから。
お姉ちゃんは私にとって、母であり姉であり娘でもあり……大事な家族で私の一部と言える霊。
お互いに命が終わり、こうして再びあの頃みたいに一緒にいられて、この数週間、夢のような毎日だった。
いつまでもこうしていたいと思うけど、思うと同時、それがとっても苦しいの。
お姉ちゃんが大好き、……昔も今も ”好き” の気持ちは変わらない。
でも、でもね……私には、お姉ちゃんと同じくらいに大事な人が出来てしまった。
その人は、アナタみたいに良い匂いがして、アナタみたいに温かくって、アナタみたいに優しいの。
虹の国から現世に渡った春の日に、イチニャンぽっちの私を救ってくれた人。
そう、まるで昔のアナタのように、野良の私を助けてくれたの。
その人は今、現世で1人で頑張っている。
そんなあの子を放っておけない、だから私は、私は____
____お姉ちゃん、ごめんね
『小雪……?』
名前を呼ばれて鼻の奥がズキッと痛んだ。
抱き上げられて近い距離で目と目が合って、お姉ちゃんの瞳の中に私が映り込んでいる。
私はそれをしばらく眺めて目に焼き付けて、そして。
『うなな、うなうn…………お姉ちゃん、……私、もう行かなくちゃ』
ちゃんと意思を伝える為に、ヒトの言葉で言ったんだ。
お姉ちゃんは『え……?』と短く言葉を発して固まった。
抱き上げられる近い距離。
お姉ちゃんの瞳の中に映る私がみるみる歪む。
私はそれを、身を裂かれる思いで視つめていた。
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