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ハッカチョ族の大きな声。
お姉ちゃんは細く息を吐き出してからこう言った。
『……小雪はすごいね、そんな事まで出来るんだ。じゃあ、……じゃあ、小雪はこれからも黄泉で暮らして、たまに現世に行って英海さんに会ってくる……というのでも良いのかな。……お姉ちゃん、わがままかな、英海さん、悲しむかな……でも、でも、出来ればそうしてほしい、…………だって、だって……本当は、もう離れたくない、……仔猫の頃から一緒にいて、大事な大事な猫なんだもの……私が忘れたりしなければ良かったのに……忘れちゃって、でもこうしてまた会えた。嬉しかった、奇跡だと思ってる。だから傍にいてほしい、現世にはたまに戻って、ああ……チガウ……お姉ちゃん、本当の本当は小雪の事、英海さんに返したくないよ……! 小雪は私の大事な子だもの……! あぁ……私、なに言ってんだろ……酷いね、勝手だね、……でも、それが本心なんだ……ごめんね』
…………ううん、ううん、
酷いけど酷くない、気持ちは分かるんだ。
私だって思ったよ。
虹に、お姉ちゃんが来た日。
私の事は忘れてしまって、目の前を通り過ぎてハムの小雪を抱き上げた時の絶望感。
今でもはっきり覚えてる。
なんとか自分を納得させて前を視たけど、でも、でもね、心のうんと奥底で、少しだけ思ってしまった。
____どうしてハムなの?
____どうして私じゃないの?
って。
あのまま英海と出会わなければ、きっと……いいえ、確実に気持ちはもっと悪い方へ堕ちたと思う。
そう……考えるのも悍ましいけど、”ハムなんていなければ良かった” と。
お姉ちゃんにはそうなってほしくない。
大好きなお姉ちゃんが、大好きな英海に対して、”英海さんなんていなければ良かった” などと、思ってほしくないの。
英海がね、よく言うのよ。
____人ってさ、弱い生き物だよ、
____自分が思うほど、こうありたいと願うほど強くないんだ、
その通りだと思う。
人も、猫も、時として心の弱さに呑まれてしまう。
だから私はお姉ちゃんの傍にいる。
お姉ちゃんが納得して、私を笑って現世に送り出してくれるまで。
でも1つだけ、どうしても聞いてほしいお願いがあるの。
『酷くないよ、勝手じゃないよ。私はお姉ちゃんが大好きだもの、こんな事でキライになんかならない。傍にいる、黄泉にいるから安心して、……でもね、その前にお願いがあるんだ。必ず黄泉に帰ってくるから、1度現世に行かせてほしい。英海は今、仕事場でたった1人で頑張ってるから助けに行きたいの。助けたら絶対に帰ってくる、約束するから』
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