第八章 霊媒師こぼれ話_白猫の小雪

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必死の思いでお願いした。 英海(ひでみ)の事が心配でたまらない。 あの子の霊力(ちから)は強いけど、でも昔、W県で彰司の父と戦った時。 火柱の中で追い詰められて、あの日たった一度だけれど、英海(ひでみ)の心が折れてしまって勝つ事と生きる事の両方を諦めかけた。★ 間一髪で助ける事が出来たけど、思い出すと肝が冷える。 もしもまた似たような状況になったとしたら……考えると気が気じゃないの。 だからお願い、私を行かせて……! お姉ちゃんは複雑そうな表情だった。 きっと、迷ってるんだ。 私を現世に行かせてあげたい、でも、それっきり戻らないんじゃないかと心配し……そしておそらく、そんな迷いに自分自身が苦しんでいる。 黙り込むお姉ちゃん、その後ろではハッカチョ族が、 『優子、小雪を行かせてあげましょうよ! 大丈夫、必ず戻ってきてくれるわ! ピョー!』 半べそ声でそう言った。 ………………お姉ちゃん、なにも話してくれない。 口を噛んで目を伏せて、石のように固まっている。 やっぱり……難しいかしら、お姉ちゃんは優しい人で、こうやって渋っているのもイジワルでしてるんじゃない。 ただ、どうしようもなく不安なのよ。 流れる沈黙、……そんな中で、私は時間が気になっていた。 時間が経てば経つほどに、英海(ひでみ)の安否が頭にチラつき居ても立っても居られない。 こうなったら、彰司に頼んで代わりに現世に飛んでもらって……と算段を付けている時だった。 『……小雪、』 掠れた声が私を呼んだ。 私は ”うな” と短く返し、続く言葉に耳を前に動かした。 『小雪の気持ちはよく分かったよ……そ、それと、小雪なら現世に行っても、お姉ちゃんの所に戻ってくると信じてる。うん……信じてはいるんだけど、で、でも、英海(ひでみ)さんはどうだろう。英海(ひでみ)さんは納得するかな、ううん……きっと納得出来ないと思う。小雪を手放したくない、傍にいてほしいって思うに決まってる。当たり前だよね、……その気持ちは私が一番分かるもの。分かるからこそ、それが怖くてたまらないの。これで小雪を行かせたらもう二度と会えないんじゃないかって不安なの。本当に酷いよね、お姉ちゃん勝手だよね……』 ★W県の修行の時に(おさ)に追い詰められたシーンがこのあたりです。 『霊媒師募集』本編に飛びます(*´ω`) https://estar.jp/novels/24474083/viewer?page=1379&preview=1
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