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AM5:36
起床時間より幾分早いが起きる事にした。
布団をたたんで部屋を整えリビングへと向かう。
築古のマンションだから、廊下を歩くと僅かにキシッと音が鳴る。
ここに住んで早5年。
今ではもう、すっかり慣れた軋む音。
間仕切りドアを手前に引くと、窓から差し込む明るい日差しと焼き魚の良い匂い。
リビングと床続きの台所には、姉と兄が仲良く並んで立っていた。
毎日ラブフラワーで帰宅時間は深夜すぎ、それでも2人はこうして毎朝早起きをする。
そして欠かさず、私の為に朝食を作るのだ。
大変だからそんな事はしなくて良いと、何度言っても聞き入れない。
「んーー良い匂い! やっぱりぃ、朝はぁ、焼き魚だよねぇ♪」←姉
「あとは海苔と納豆と味噌汁、これも外せねぇよ」←兄
朝から元気な笑い声、毎日の決まったやり取り。
ああ、これもそうだ。
一体、いつになったら慣れるのだろう。
家の中に姉ちゃんがいる、健吾さんもいる、家族がいる。
家族は私を見つけると、
「あっ! みぃちゃんが起きたぁ! おはよう♪」
「みぃちゃん! 朝メシはもうすぐ出来るからな!」
惜しむ事なく笑顔をくれる。
大きな声で私の名前を呼びながら、歯を見せて笑うんだ。
そのたびに、鼻の奥がツンと痛んで泣きそうになる。
少しも慣れない、当たり前だと思えない。
家族が傍にいてくれるのが夢のようで、毎朝毎晩、幸せを噛みしめる。
過去に私が壊した幸せ、その幸せが此処にある。
「姉ちゃん、健吾さん、おはよう。朝ごはん、いつもありがとうね」
この幸せは、あの人が繋ぎ戻してくれたもの。
孤独の沼に鎖に繋がれ沈んだ私を、必死になって引き上げてくれたんだ。
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