第九章 霊媒師こぼれ話_エイミウの星の砂

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◆ AM8:50 出掛ける準備はほぼ完了で、後は最終確認のみだ。 まずは持ち物。 ハンカチ3枚(手を拭く用、汗を拭く用、万が一にあの人が忘れてきたら貸し出す用)、ポケットティッシュとウェットティッシュ、鎮痛剤と胃腸薬、絆創膏に目薬と、裁縫セットにメイク道具とヘアブラシ、あとは財布にスマートフォンと、折り畳みの傘が2本……全て鞄に入っている、忘れ物は無い。 続いては身だしなみ。 清潔感第一で、肩まで伸びた髪はひとつにシンプル結び。 服装はベージュ色のアンサンブルに焦げ茶色のロングスカート。 似合うか否かは別として、これを選んだのはユリさんだから間違いはないだろう。 メイクはたっぷり時間を掛けた。 クリームタイプのファンデーションで肌に艶と透明感を。 アイラインはペンシルタイプとリキッドタイプの両刀使いで目の大きさを3倍に。 アイブローはパウダータイプでふんわりとした立体眉に整えた。 ヌードカラーのアイメイク、ムラが出にくいコームのマスカラ、ブルーベースのメリハリチーク。 口紅は食事の時に気にならないよう光を抑えたグロスのみ。 鏡を見れば私が私でなくなっている。 大袈裟ではなく別人だ。 5年前に大倉さんから教えてもらった整形メイク、……私はこのメイクに救われた。 今では外を歩いても、見知らぬ誰かに罵倒される事はない。 他人と目線が合ったとしても、そのまま素通りしてくれる。 メイクは醜女(しこめ)を、どこにでもいる普通の女にしてくれるのだ。 それは、私にとって奇跡そのもの。 大倉さんには心の底から感謝をしている。 …… ………… ……………… ____今日はみぃちゃん、デートなんでしょう? ____きゃー! 姉ちゃんまで嬉しくなっちゃうぅぅ!  ____思いっきり楽しんできてねぇ♪ 玄関で、姉ちゃん達に見送られ、駅まで歩いて電車に乗った。 平日の午前中、下りの電車は人もまばらで混んでいない。 土日とは異なる空気の急行電車が4つの駅を通過して、16分後に目的地であるK駅に到着した。 現在時刻は9時38分、落ち合う時間の22分前だ。 良かった、これで今日も待たせずに済む。 待たせたからとて怒る人ではないけれど、私自身が嫌なのだ。 元々誰かを待たせる事が苦手だし、その相手があの人ならば尚更だ。 あの人は約束の10分前には到着するから、私はそこから更に10分、早く着くよう調整している。 それは特段苦ではない。 そうする事で10分長く一緒にいられる、それがとっても幸せだから。
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