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プラットホームを後にして、落ち合う場所の改札口をめざして歩く。
初めて降りる駅だけど、駅ビルが併設されているからか、人が多くて賑やかだ。
人混みの間を縫って進んで行けば、改札口が見えてきた、…………のだが。
思わず立ち止まる、目線の先には見覚えのある茶色い髪の細身の男性。
壁を背中に1人で立って、スマートフォンを眺めているが……(ジーーー)間違いない、彼はやはり岡村さんだ。
念の為に腕の時計を見てみると、現在時刻は9時40分、……落ち合う時間の20分前で間違いない。
いつもだったら10分前に来るはずなのに、どうして今日は早いのだろう。
頭に疑問を浮かべつつ、傍まで行って「岡村さん、」と声かければスマートフォンから顔を上げ、
「あ、水渦さん! おはよう、相変わらず来るのが早いねぇ……って、ん? 僕の方こそ早い? あはははは、驚いた? 僕ね、今日は絶対水渦さんより早く来ようと決めてたの。だって、待ち合せると、いっつもアナタが先に来るから、たまには僕が先に着いて待っているのも良いかなぁって」
笑いながらそう言った。
ああ……いけない、また始まった。
この人の笑顔を見ると心臓が早くなる、眩しくて視界が狭まり他に何も見えなくなる、顔と耳に熱がこもって頭の芯からクラクラする。
この6年で何度も見ているはずなのに、いつまで経っても慣れなくて、胸がギュッと締め付けられる。
このままでは身体が持たない。
せっかく今日は2人で会える貴重な休日、気を引き締めて挑まねば。
「”たまには先に待っていよう”、……ですか。それにしたって早すぎます。一体何時から駅にいたのですか?」
____そんな事、しなくて良いのに。
いつも通りに来たら良いのに。
「30分前。水渦さんはいつも、待ち合わせると20分前には来てるでしょ? だからそれに10分足したの」
「そんなに前から? それでずっと改札にいたのですか? はぁ……まったく、何をしてるんですか。待ってる間、退屈でしたでしょうに」
____不覚だった。
まさか、そんな事を考えようとは。
次回からは20分ではなく40分前に来よう。
「ううん、退屈じゃなかったよ。むしろ楽しかった。電車がくるたび、水渦さんを探すんだ。この電車かな、それとも1本後かなぁとか考えながら」
「……え?」
____この人、私と同じ事をしている?
私もいつも探してる、今日も探すつもりでいたのに貴方が先に此処にいた。
驚いて黙った私にこの人は、
「あ、あれ? ゴメン、なんか引いてる? 大の大人が変だなって思ってる? や、でも会えるのが嬉しくて、昨日の晩から楽しみにしてたから、それで、」
赤くなって言い訳をしてるんだ。
引くはずが無い、変だなんて思ってない。
ううん、思うはずがないじゃない。
こういう時、”私も同じだよ”、と言えたらどんなに良いだろう。
だけど言えない。
嬉しくて、すでに涙が出そうになってる。
そんな言葉を口に出したら、大の大人が改札口で、きっと私は泣いてしまう。
だから今は、
「変だとは思っていません。引いてもいません。問題はありませんので安心してください。さぁ、それよりも行きましょう。いつまでも改札口にいても仕方がありませんから」
これを言うのが精一杯だ。
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