第九章 霊媒師こぼれ話_エイミウの星の砂

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プラットホームを後にして、落ち合う場所の改札口をめざして歩く。 初めて降りる駅だけど、駅ビルが併設されているからか、人が多くて賑やかだ。 人混みの間を縫って進んで行けば、改札口が見えてきた、…………のだが。 思わず立ち止まる、目線の先には見覚えのある茶色い髪の細身の男性。 壁を背中に1人で立って、スマートフォンを眺めているが……(ジーーー)間違いない、彼はやはり岡村さんだ。 念の為に腕の時計を見てみると、現在時刻は9時40分、……落ち合う時間の20分前で間違いない。 いつもだったら10分前に来るはずなのに、どうして今日は早いのだろう。 頭に疑問を浮かべつつ、傍まで行って「岡村さん、」と声かければスマートフォンから顔を上げ、 「あ、水渦(みうず)さん! おはよう、相変わらず来るのが早いねぇ……って、ん? 僕の方こそ早い? あはははは、驚いた? 僕ね、今日は絶対水渦(みうず)さんより早く来ようと決めてたの。だって、待ち合せると、いっつもアナタが先に来るから、たまには僕が先に着いて待っているのも良いかなぁって」 笑いながらそう言った。 ああ……いけない、また始まった。 この人の笑顔を見ると心臓が早くなる、眩しくて視界が狭まり他に何も見えなくなる、顔と耳に熱がこもって頭の芯からクラクラする。 この6年で何度も見ているはずなのに、いつまで経っても慣れなくて、胸がギュッと締め付けられる。 このままでは身体が持たない。 せっかく今日は2人で会える貴重な休日、気を引き締めて挑まねば。 「”たまには先に待っていよう”、……ですか。それにしたって早すぎます。一体何時から(ここ)にいたのですか?」 ____そんな事、しなくて良いのに。 いつも通りに来たら良いのに。 「30分前。水渦(みうず)さんはいつも、待ち合わせると20分前には来てるでしょ? だからそれに10分足したの」 「そんなに前から? それでずっと改札にいたのですか? はぁ……まったく、何をしてるんですか。待ってる間、退屈でしたでしょうに」 ____不覚だった。 まさか、そんな事を考えようとは。 次回からは20分ではなく40分前に来よう。 「ううん、退屈じゃなかったよ。むしろ楽しかった。電車がくるたび、水渦(みうず)さんを探すんだ。この電車かな、それとも1本後かなぁとか考えながら」 「……え?」 ____この人、私と同じ事をしている? 私もいつも探してる、今日も探すつもりでいたのに貴方が先に此処にいた。 驚いて黙った私にこの人は、 「あ、あれ? ゴメン、なんか引いてる? 大の大人が変だなって思ってる? や、でも会えるのが嬉しくて、昨日の晩から楽しみにしてたから、それで、」 赤くなって言い訳をしてるんだ。 引くはずが無い、変だなんて思ってない。 ううん、思うはずがないじゃない。 こういう時、”私も同じだよ”、と言えたらどんなに良いだろう。 だけど言えない。 嬉しくて、すでに涙が出そうになってる。 そんな言葉を口に出したら、大の大人が改札口で、きっと私は泣いてしまう。 だから今は、 「変だとは思っていません。引いてもいません。問題はありませんので安心してください。さぁ、それよりも行きましょう。いつまでも改札口(ここ)にいても仕方がありませんから」 これを言うのが精一杯だ。
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