第九章 霊媒師こぼれ話_エイミウの星の砂

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美味しいのと懐かしいのが入り混じり、僕はさっそく話を振った。 「このシチュー美味しいね。これ食べてたら思い出しちゃった。ほら、僕がまだ新人だった頃、水渦(みうず)さんとジャッキーさんと神奈川のポ現の現場に行ったじゃない。その次の日にジャッキーさん()で打ち上げしてさ、お昼に出してもらったシチューが、すっごい美味しかったんだよねぇ。それで、自分でも作ってみたくてレシピを聞いて何度かチャレンジしたけどさ、どうやってもジャッキーさんとおんなじ味にならないの。なにが違うんだろ」 水渦(みうず)さんは上げ下げしていたスプーンを一旦止めた後、 「言われてみれば、此処のシチューと志村さんのは似ていますね。どちらも甲乙つけがたい絶品です。ですが、私から言わせてもらえば岡村さんの作るシチューが一番だと思っています。野菜が溶け込みまろやかだから幾皿でも食べられますし。え? お世辞ではありませんよ。ご存じだと思いますが、私の性格上、心に無い事は言いませんので。先月でしたか……弥生さんから自宅に招待されたのですが、その日たまたま仕事が休みの志村さんがシチューを作ってくれました。確かにそれは絶品でしたが岡村さんには敵いません、」 サラッとシレッとこんなコトを言ったんだ。 「え、ちょっと待って。ジャッキーさんのシチューより、僕のが美味い訳ないじゃん! 野菜が溶け込みまろやかだって言うのはさ、毎回煮込みすぎちゃて、野菜がぜーんぶ溶けてるだけだし。てゆーか、それよりなにより、先月に志村家行ったの聞いてないよ! 水渦(みうず)さん、僕に黙ってジャッキーシチュー(敬称略)食べたんだ! 良いなぁぁぁ、僕も誘ってよぉ!」 ガチでうらやまっ! そりゃあ僕も、志村家にはちょくちょく遊びに行くけどさ、お夕飯はなぜか毎回カラアゲなんだ(カラアゲも美味いけど)。 「え! 私、言ってませんでした? すみません、志村家に行った後は泊まり現場が続いたもので、言うのを忘れていたのかも……」 アセアセしている水渦(みうず)さん。 僕はブーブー文句を言いつつ、だけどなんだか嬉しい気持ちになったんだ。 弥生さんとこの人は、かつてあんなに仲が悪くて ”犬猿” どころの騒ぎじゃなかった。 途中で和解したけれど、それでも最初はぎこちなくてさ。 それが今ではオウチに呼ばれて、一緒にゴハンを食べるだなんて夢みたい。 本当に本当に嬉しいよ。
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