第九章 霊媒師こぼれ話_エイミウの星の砂

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◆ 創立記念日当日 AM8:41 電車に乗車し揺られる事57分。 3度電車を乗り継いで、到着したのは東京都(オオ)市だ。 訪れたのは初めてだけど、あの人からどんな町かは聞いている。 曰く、 ____(オオ)市はね、梅の花が有名なんだよ、 ____自然豊かで街並はレトロな感じでノスタルジック、 ____そして土地柄なのか、 ____穏やかで優しくて面倒見の良い人が多いんだって、 ____僕、(オオ)市が好きなんだよね、 ____行くとなんだか落ち着くの、 ____きっと、水渦(みうず)さんも好きになると思うんだよな、 という事らしい。 確かに……振り向けば、駅建物の後ろにそびえる大きな山は真っ赤に染まり、前を見ればロータリーを囲う花壇に色とりどりのコスモスが競うように咲いていた。 綺麗な町だ……それはヒトも同様で、秋晴れのもと道行く生者は花を見ながら笑い合い、山を視上げる死者達も物柔らかに笑っている。 こういう町ならあの人が好きになるのも頷けた。 あの人の言う通り、私も此処が好きになれそう。 邪気の無い土地、友人の住まう町。 (オオ)駅からユリさん宅まで、歩いて大体15分と聞いている。 訪問は初めてで、当初は清水が「駅に着いたら車で迎えに行ってやる」と言ったのだけど、それは即座に断った。 その理由は、清水の事が好きではないから……と、言う訳ではなく、地図鑑賞が趣味の私は、住所を聞けば迷う事無く到着出来る。 だからわざわざ迎えなど必要無いという事だ。 そう、……今の私は清水が嫌ではなくなった。 昔は本当に、心の底から大嫌いだった。 清水誠は生まれ持ってのリーダーで、明るく強く堂々として、誰に対しても公平だ。 そんな清水の顔を見れば悪寒が走り、口をきけば腸が煮えくり返った。 醜女(しこめ)の私に ”ミューズ” などとあだ名を付けて、何度それに抗議をしても何処吹く風で話を聞かない。 何時でも何処でもふざけているのが気に喰わないし、何を言ってもへこたれないのも苛立った。 そして、私がトラブルを起こすたびに庇い続けるのも嫌だった。 そもそも、どうして私を庇うのか全く持って意味不明。 お節介にも程がある、厄介者は切り捨てれば良いものを、偽善者ぶって気持ちが悪いと思っていた。 だけど今なら……今なら分かる。 私に変なあだ名を付けて、しつこいくらいに話しかけてきた事も、何があっても私を庇ってきた事も、社長という立場なら切る事だって容易いだろうに、それでも切らずにいてくれたのも、奴の性根が ”偽善者” ではなく、馬鹿が付く程 ”善者” の人で、見捨てないと言うよりは、見捨てる事が出来ずにいたのだ。 そんな事にも気付けなかった愚かな私に、昔も今も変わらぬ態度で接する清水。 相も変わらず私を ”ミューズ” と呼ぶけれど、気付いた後は好きに呼ばせる事にした。 大事な友の大事な人は思った以上に良い奴で、今となっては私にとっても大事な人だ。 まぁ……だからと言って、それを清水に言う気はまったくないけれど。
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