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◆
創立記念日当日
AM8:41
電車に乗車し揺られる事57分。
3度電車を乗り継いで、到着したのは東京都O市だ。
訪れたのは初めてだけど、あの人からどんな町かは聞いている。
曰く、
____O市はね、梅の花が有名なんだよ、
____自然豊かで街並はレトロな感じでノスタルジック、
____そして土地柄なのか、
____穏やかで優しくて面倒見の良い人が多いんだって、
____僕、O市が好きなんだよね、
____行くとなんだか落ち着くの、
____きっと、水渦さんも好きになると思うんだよな、
という事らしい。
確かに……振り向けば、駅建物の後ろにそびえる大きな山は真っ赤に染まり、前を見ればロータリーを囲う花壇に色とりどりのコスモスが競うように咲いていた。
綺麗な町だ……それはヒトも同様で、秋晴れのもと道行く生者は花を見ながら笑い合い、山を視上げる死者達も物柔らかに笑っている。
こういう町ならあの人が好きになるのも頷けた。
あの人の言う通り、私も此処が好きになれそう。
邪気の無い土地、友人の住まう町。
O駅からユリさん宅まで、歩いて大体15分と聞いている。
訪問は初めてで、当初は清水が「駅に着いたら車で迎えに行ってやる」と言ったのだけど、それは即座に断った。
その理由は、清水の事が好きではないから……と、言う訳ではなく、地図鑑賞が趣味の私は、住所を聞けば迷う事無く到着出来る。
だからわざわざ迎えなど必要無いという事だ。
そう、……今の私は清水が嫌ではなくなった。
昔は本当に、心の底から大嫌いだった。
清水誠は生まれ持ってのリーダーで、明るく強く堂々として、誰に対しても公平だ。
そんな清水の顔を見れば悪寒が走り、口をきけば腸が煮えくり返った。
醜女の私に ”ミューズ” などとあだ名を付けて、何度それに抗議をしても何処吹く風で話を聞かない。
何時でも何処でもふざけているのが気に喰わないし、何を言ってもへこたれないのも苛立った。
そして、私がトラブルを起こすたびに庇い続けるのも嫌だった。
そもそも、どうして私を庇うのか全く持って意味不明。
お節介にも程がある、厄介者は切り捨てれば良いものを、偽善者ぶって気持ちが悪いと思っていた。
だけど今なら……今なら分かる。
私に変なあだ名を付けて、しつこいくらいに話しかけてきた事も、何があっても私を庇ってきた事も、社長という立場なら切る事だって容易いだろうに、それでも切らずにいてくれたのも、奴の性根が ”偽善者” ではなく、馬鹿が付く程 ”善者” の人で、見捨てないと言うよりは、見捨てる事が出来ずにいたのだ。
そんな事にも気付けなかった愚かな私に、昔も今も変わらぬ態度で接する清水。
相も変わらず私を ”ミューズ” と呼ぶけれど、気付いた後は好きに呼ばせる事にした。
大事な友の大事な人は思った以上に良い奴で、今となっては私にとっても大事な人だ。
まぁ……だからと言って、それを清水に言う気はまったくないけれど。
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