第九章 霊媒師こぼれ話_エイミウの星の砂

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◆ 駅から歩いて13分が経過した。 頭の中に展開された(オオ)市の地図の道順通りに進んでいけば、後は前方3メートルを左折すれば到着するはず。 地図に従い道を左に曲がってみると、そこには延々先まで続く焦げ茶の外塀が見てとれた。 ああ、この外塀には視覚えがある(・・・・・・)。 清水の家に行った事はないけれど、かなり昔に奴がどんな所に住んでいるのか興味本位で覗いた事があるからだ。 もっとも清水は常日頃からウォールの印を結んでいるから、外観だけしか視る事が叶わなかったが、……などと言うと、屋内も視たかったのかと誤解をされてしまうけど、それだけは有り得ない。 あんな暑苦しい男、見るのはたまの出社時だけで十分だ。 どうせ視たとて食べているか寝ているか、残りは全て筋トレだろうし視るだけ無駄だ。 今では許可なく勝手に誰かを霊視したりはしないけど、かつての記憶で外観だけは覚えている。 古い旅館を連想させるとても大きな日本家屋で、芝生の庭も手入れがされて広々していた。 今日は(そこ)でバーベキューをするらしい。 人も沢山集まるようで生死は不問、生者も死者も呼んでいると言っていた。 一体何人来るのだろうか。 人数は不明だが、当然ユリさんのご家族も黄泉の国から来るのだろう。 失礼の無いようにしなくては。 ここ数年は気を付けてはいるけれど、私はまだまだ対人スキルがすこぶる低い。 意図せず言葉がキツクなり、意図せず誰かを不快にさせる。 せっかくの集まりなのに、私のせいで嫌な思いはさせたくない。 …… ………… 枯れ葉を踏みつつ歩いて行くと、此処でようやく外塀が途切れた場所に辿り着く。 途切れた場所には立派な門扉があるけれど、開け放たれて出入りが自由になっていた。 そこから中を覗いてみれば、大きな庭をぐるりと囲う梅の木が赤く染まって鮮やかだった。 それにしても……どうも気後れしてしまう。 霊視で視るのと肉眼で見るのでは、同じ家をみているはずが違って見える。 豪邸と言って何ら差支えが無い。 門扉は全開、開放的だがあと一歩が踏み出せないでいた。 ユリさんは ”気にせず入って玄関のインターフォンを鳴らしてください!” と言っていたけど、門から玄関、そこまでも距離がある。
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