第二章 霊媒師こぼれ話_持丸平蔵と清水誠ー1

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男の子との距離は1メートル強。 ちょっと近いかな……と思うけど、なんてったって人がたくさんいますから、紛れてしまえば大丈夫、気づかれてません。 まずは観察です。 男の子は……壁際に行きましたねぇ。 そこにはズラリとパソコンが並んでて、その中の空いてる席にストンと座り、さっそくキーボードを叩き始めました。 熱心です、画面に顔を近づけて読んでいます。 若いから老眼って訳じゃあないだろうに、きっと必死なのでしょうね。 ふむ……彼はどんな職種を希望してるのかしら……ここからでは……視えません。 仕方がないです、もうちょっと近付いてみましょう(ソローリソローリ)。 さり気なく……そう、さり気なくです。 私は彼の後ろに立って、チラチラ画面を覗きます……が、なんだか緊張しますねぇ、でも、秘密のスパイみたいでカッコイイかもしれません。 さてさて、男の子が見ている職種は…………営業、コールセンター、事務職、ですか。 ふむ、霊媒師の ”れの字” もありませんねぇ。 関連職で ”祈祷師” も ”呪術師” も ”エクソシスト” もありませんよ。 霊的要素はゼロ…………んもう! せっかく霊力(ちから)があるのに勿体なーい! この子、……まだハッキリとは分かりませんが、相当強い霊力(ちから)を秘めてるはずです。 私と男の子との接触は、目が合って一言挨拶を交わしただけ。 それでも分かります、分かるんですよ。 だって私、彼の背中に声を掛けたんです。 しかも大きな声じゃない、小さい声でね。 彼はこの人混みの中、私の声をしっかりと聞き取りました。 霊力(ちから)が無ければ出来ない事です。 それだけじゃない。 振り向いて、私の姿を視たというのに、彼は実に落ち着いていました。 驚くでもなく騒ぐでもなく、控え目ながらに笑顔を作り、私に向かって「こんにちは」と言ったんです。 これがどんなに凄い事か…………! きゃーーーー! 思い出したら胸がドギマギ高鳴っちゃったーーーー! 不整脈でも動悸でもない! こんなトキメキ何十年ぶりかしらーーーー! ハッ……! いけない、年甲斐もなく興奮してしまいました。 でもねぇ、興奮もしちゃいますよ。 だって、だってだってだって……! 彼は私を視ても驚かなかったんです!(と、私の方が驚いてる) という事は、実は私が幽霊だなんて夢にも思ってないのでしょう。
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