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男の子との距離は1メートル強。
ちょっと近いかな……と思うけど、なんてったって人がたくさんいますから、紛れてしまえば大丈夫、気づかれてません。
まずは観察です。
男の子は……壁際に行きましたねぇ。
そこにはズラリとパソコンが並んでて、その中の空いてる席にストンと座り、さっそくキーボードを叩き始めました。
熱心です、画面に顔を近づけて読んでいます。
若いから老眼って訳じゃあないだろうに、きっと必死なのでしょうね。
ふむ……彼はどんな職種を希望してるのかしら……ここからでは……視えません。
仕方がないです、もうちょっと近付いてみましょう(ソローリソローリ)。
さり気なく……そう、さり気なくです。
私は彼の後ろに立って、チラチラ画面を覗きます……が、なんだか緊張しますねぇ、でも、秘密のスパイみたいでカッコイイかもしれません。
さてさて、男の子が見ている職種は…………営業、コールセンター、事務職、ですか。
ふむ、霊媒師の ”れの字” もありませんねぇ。
関連職で ”祈祷師” も ”呪術師” も ”エクソシスト” もありませんよ。
霊的要素はゼロ…………んもう!
せっかく霊力があるのに勿体なーい!
この子、……まだハッキリとは分かりませんが、相当強い霊力を秘めてるはずです。
私と男の子との接触は、目が合って一言挨拶を交わしただけ。
それでも分かります、分かるんですよ。
だって私、彼の背中に声を掛けたんです。
しかも大きな声じゃない、小さい声でね。
彼はこの人混みの中、私の声をしっかりと聞き取りました。
霊力が無ければ出来ない事です。
それだけじゃない。
振り向いて、私の姿を視たというのに、彼は実に落ち着いていました。
驚くでもなく騒ぐでもなく、控え目ながらに笑顔を作り、私に向かって「こんにちは」と言ったんです。
これがどんなに凄い事か…………!
きゃーーーー!
思い出したら胸がドギマギ高鳴っちゃったーーーー!
不整脈でも動悸でもない!
こんなトキメキ何十年ぶりかしらーーーー!
ハッ……!
いけない、年甲斐もなく興奮してしまいました。
でもねぇ、興奮もしちゃいますよ。
だって、だってだってだって……!
彼は私を視ても驚かなかったんです!(と、私の方が驚いてる)
という事は、実は私が幽霊だなんて夢にも思ってないのでしょう。
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