第九章 霊媒師こぼれ話_エイミウの星の砂

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◆ 志村家の合流により、部屋の中が一層明るく賑やかになった。 大人4人と子供が2人、ゆっくりとお茶を飲みつつ話に枝葉が及んでいく。 「ジャッキーは誠と一緒にバーベキューの準備をしてる。今日はさ、女子供はなんにもしなくて良いんだって!」 こう言ったのは弥生さんで、隣に座るマジョリカさんも『ありがたーい!』と笑っている。 双子の天使はバーベキューが楽しみらしく、二人でキャッキャとはしゃいでいた。 そんな中、マジョリカさんが私を視ながらこう聞いた。 『ねぇねぇ、さっきから気になってたんだけど、水渦(みうず)のその髪すっごい可愛い! もしかして自分で結ったの?』 な!? 私が結うなどそんな馬鹿な! 「め、滅相もない、この髪はユリさんがしてくれました。私一人でこんなに綺麗に結えるはずがありません」 慌てて言うと、弥生さんも膝で歩いて傍に来た。 「この髪をユリちゃんが? へぇぇ! すごいじゃんかー! アタシも気になってたんだよ、めちゃくちゃ綺麗に結ってあるって! ちょっと後ろも見せてくれよ。ん? ダイジョブだ、水渦(みうず)は照れんなよ、良いから後ろ向けって、……わぁ……! 細か……これどうなってんだ……? まとまってるけどフワフワしてて、なんつーか……レース編みみたいだな……」 うなじ辺りで声がする。 弥生さんは私の肩を両手で掴むと右に左に動かして、髪を眺めていつまでたっても離れてくれない。 そのうちに声がだんだん増えてきた。 「こういう髪も良いよな。イメージがガラッと変わった」←弥生さん 『すんごい可愛い! 水渦(みうず)に良く似合ってるよぉ』←マジョリカさん 「でしょでしょー! 水渦(みうず)さんにぴったりだと思うんです♪」←ユリさん 「ミーズのみちゅあみ、ふわふわねぇ、かあいいねぇ」←弥春(みはる)君 「ミーミー、おひめさまみたいねぇ、ちれーだねぇ」←茉春(まはる)ちゃん ど、どうしたら良いのだろうか。 美女三人と天使二人から褒め殺しにあっている。 一生分の賛辞をもらってなんだか胸がくすぐったい。 じわりじわりと嬉しい気持ちが湧き上がり、私の髪を結ってくれたユリさんと、褒めてくれるみんなに一言「ありがとう」と言おうと顔を上げたその時。 「ひぃ!!」 思わず悲鳴が漏れてしまった。 目線の先には大きな窓が、その窓の向こう側から巨大な顔が部屋を覗き込んでいる。 顔は毛むくじゃらだった。 白と黒の毛皮に覆われ、私を視ながらニヤリと笑い、そしてこう言ったのだ。 『ケケケ! オマエが水渦(みうず)か! 俺の家族が世話になってるみてぇだな!』 この方とは初対面。 それでも噂は聞いている。 名乗りがなくてもすぐに分かった。 白がベースでつぶらな瞳を囲む楕円と鼻と耳が黒色の巨大パンダ。 そう、バラカスさんだ。
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