第九章 霊媒師こぼれ話_エイミウの星の砂

32/102
前へ
/380ページ
次へ
昔____ 志村さんから聞いた事がある。 バラカスさんの身長は7メートル強、一般的な二階建ての住宅と同等くらいだと。 なるほど確かに、大きな窓は四隅の端までパンダの顔でいっぱいだ。 巨大なパンダは ”ケケケ” と笑い、閉まったままの大きな窓を難無くすり抜け顔だけ部屋に入り込む。 そして、 『こっちが水渦(みうず)で、そっちのリボンがユリだろう? 初めて会うな。俺はバラカス、バンブー星のパンダ族で(ピー)(エー)バラカスだ。娘達から話は聞いてる。娘と息子だけじゃなく、孫も世話になってるみてぇでアリガトよ!』 大きな声でご挨拶を頂いた。 片言でもなんでも無い、完璧な日本語だ。 挨拶を最初に返したのはユリさんだった。 彼女は霊媒師ではないものの、巨大すぎるバラカスさんに驚く事なく笑顔で言った。 「わぁぁぁ! バラカスさん初めまして! そうです、当たりです、清水ユリです、知っててくださって嬉しいです! 私も弥生さんとマジョリカさんからバラカスさんのお話をたくさん聞いてます。ずっとお会いしたいなぁと思ってたから会えて嬉しい! えへへ、夢が叶っちゃいました。今日はぜひぜひ、ゆっくりしていってください。みんなで一緒にバーベキューを楽しみたいです♪」 元気で明るい挨拶に、バラカスさんは目を細めていた。 頷きながら『俺の方こそヨロシクな』と空気はとても柔らかい、良い雰囲気だ。 次は私の番だ……が、少し緊張する。 昔と多少は変わったとは言え基本的には人見知り。 バラカスさんは大事な友人(ひと)の大事な父親、粗相の無いようにしなくては。 「初めまして。小野坂水渦(みうず)と申します。私もユリさんと同様、バラカスさんのお話はよく聞いていたので、お会い出来て嬉しいです。不束者ではございますが、今回を機に今後共どうぞ宜しくお願い致します。あ、そうそう、忘れていました。私、こんな事もあろうかと名刺を持参しております。もし宜しければお渡ししてもよろしいでしょうか、」 言いながら指を鳴らして会社の名刺を出現させた。 紙の名刺と寸分違わぬ大きさで、昨夜のうちに霊力(ちから)でもって構築済みだ。 今日はこれを念の為に20枚持参している(死者も沢山集まると聞いていたから)。 この名刺なら死者でも触れて受け取る事が可能となる。 私は起立し、文字に指が掛からないよう注意しながら両手で名刺を差し出した。 仕事の場では無いけれど失礼では無いはずだ。 ”コミュニケーション訓練中” の私の場合、余計な事を話すよりかはこちらの方が良いだろう。 そう、私はかつての私ではない。 ”攻め” から転じて ”守り” がモットー、備えあれば患いなしだ。 だがしかし、…………どうも様子がおかしい。 バラカスさんが目を細めない、さっきと違って目を視開いて名刺を視ている。 まさかと思うが失敗か……? バンブー星との文化の違いで、もしや名刺は失礼だったと言うオチか? だとすると……非常にまずい。 不安になって出した名刺を引っ込めようとした、まさにその時。 ブハッ!! 「オイ笑わせんなよ! その名刺、わざわざ霊力(ちから)で構築したのか?」←弥生さん 『水渦(みうず)ぅ、その名刺ウチにもちょうだーい!』←マジョリカさん 「笑ってごめんなさい! 水渦(みうず)さん、可愛いよぉ!」←ユリさん 『ケケケ! オマエ面白(おもしれ)え女だな! 気に入ったわ!』←バラカスさん 双子を除いた大人全員吹き出したのだ。
/380ページ

最初のコメントを投稿しよう!

478人が本棚に入れています
本棚に追加