第九章 霊媒師こぼれ話_エイミウの星の砂

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『ケケケー! まさかよ、ユーレー相手に名刺を配る気満々で、昨日のうちに夜なべで構築するとはな! 水渦(みうず)よ、発想が斜め上をいってんな! いやー笑った笑った! 笑いすぎて腹が(いて)えからよ、俺はちょっくら庭でゴロゴロしてくるぜ』 私はバラカスさんに爆笑されてしまった。 どうして笑われたのか。 最初は訳が解らなかったが、死者に名刺を渡すのは一般的では無いらしく、理由を聞いてそういうものかと勉強になった。 笑われてはしまったけれど、嫌な気持ちにはならなかった。 だって、分かるから。 バラカスさんの爆笑は、かつて私が見知らぬ人から向けられた、侮蔑を含んだ薄い笑いのそれとは違う。 友好的で温かで、笑われたとて居心地は悪くない。 それに、 『パン、そうだ。せっかくだからその名刺一枚寄越せ、貰ってやるよ! ケケケ!』 結局こうして受け取ってくれるのだ。 話には聞いていたけど噂通りだ。 バラカスさんは毒舌で、言いたい事はお腹に隠さずズバズバ言うけどその分裏と表がない。 面倒視が良く優しい方だと皆が言うけど、その通りだと思った。 私は案外こういう方と縁があるのかもしれない。 ”さて”、短く言ったバラカスさんが部屋から出ようとしたその時。 志村家の双子の天使がバラカスさんを引き留めた。 「じーじ! どこいくの!? みはとまはとあしょぶんでしょー!」←弥春(みはる)君 「じーじー、あそぶでそー!」←茉春(まはる)ちゃん 舌足らずな高い声。 頬をぷくっと膨らまし、バラカスさんが出て行く事に口を尖らせ抗議した。 抗議を受けた双子の祖父は、それに優しく応えたのだが……その優しさが尋常では無く凄かった。
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