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声が聞こえたその瞬間。
心臓が煩いくらいに大きく鳴って思わず身体を低くした。
身を屈めたまま窓の向こうを見てみると、あの人とバラカスさんが向かい合って話をしている。
確か彼らは初対面、互いに笑顔で挨拶を交わし合っていた。
「僕、マジョリカさんとも友達で、バラカスさんのお話は昔っから聞いてます! 僕の事はご存じないと思うけど、バラカスさんとは会ってみたいと常々思って、」
恐らくは、彼はこの後 ”いたんです!” と続けるつもりでいたのだろうけど、バラカスさんは気が短いのか、それより先に話に被せてこう言った。
『おっ! じゃあ、おまえが岡村か! 知ってるよ、俺の家族は勿論だが、色んなヤツがおまえの話をしているからな!……にしても、ケケケ! 岡村は噂通りの優男じゃねぇか!』
____優男
優男とは、姿形が上品ですらりとしている男性。
また、性質の優しい男性を指す____
正にあの人の事だ。
見目麗しく所作の全てに品があり、清く正しく慈愛の心を持つ男性。
バラカスさんは解ってらっしゃる……が、気になる事も言っていた。
”噂通りの__” とはどういう意味なのか。
言葉の通りに受け取るのなら、あの人が他の誰かの話題に上り噂をされているという事。
気になる、一体誰が彼の噂をしているのだろう。
順当に考えるのなら弥生さん? マジョリカさん? 志村さん?
それとも、私の知らない誰かだろうか、……その可能性はゼロではない。
彼は人から愛される、老いも若きも男性女性も関係無しに。
そう、あれだけ素敵な男性なのだ、噂になって何の不思議があるだろう。
そして、噂をする人の中には綺麗な女性がいるかもしれない(いや、いる)。
さらに、その中の幾人かは(もしくは全員)、密かに彼に想いを寄せているかもしれず、もしもそうなら私なんぞに勝ち目は無い。
ああ……胃が、痛くなってきた。
屈めた身体の腹を押さえて、恥ずかしながら不安な気持ちをユリさんに漏らしてしまった。
くだらぬ話に困惑するかと思いきや、
「水渦さん、さすがにそれは考えすぎです」
そう言って半分笑って私の背中を撫ぜたのだ。
「考えすぎ、……でしょうか」
言われた言葉に縋りたくなる。
あの人以上に素敵な男性はどこにもいない。
付き合えたのは奇跡そのもの。
幸せだけど、その分不安が付きまとう。
「そうですよぉ、悪い方に考えすぎです。んもー、水渦さんってば仕事の時とぜんぜん違うんだから」
ユリさんは言いながら甘いお菓子を手に取ると、”あーん” と言って私の口に放り込む。
まるで子供扱いだ。
だけどなんだか温かい、気持ちが丸くなっていく。
「ありがとうございます、……美味しい」
「美味しい? 良かったぁ。水渦さんって本当に岡村さんの事が大好きなんですね。ふふふ、あんなコト言っといて照れないでください。だいじょうぶです、だってね、水渦さんのそういう気持ち、私すっごく分かるんです。不安になるのは大好きだから。他人が聞いたら ”そんなコトで不安になるの!?” って言われちゃうよな些細なコトで揺れちゃうの。私もそうでした」
「ユリさんも同じ……?」
「うん、おんなじでした。大好きな分不安になるし、相手があまりに素敵過ぎて自分に自信が持てないの。ココだけの話、私はけっこう焼きもちやきで、しょっちゅう社長を困らせたんだ。内緒ですけどね」
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