第九章 霊媒師こぼれ話_エイミウの星の砂

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ユリさんが焼きもちをやく? こんなに優しく穏やかで、こんなに綺麗で可愛らしい……ユリさんは、まさに天女そのものなのに? 清水のようなガサツな男が天女を妻に迎えた奇跡。 奴こそがあらゆる場面で焼きもちをやき、オロオロ狼狽えベソをかくのが然りと言うのに、清水ではなくユリさんが焼きもちをやく? 逆ならまだしも……にわかには信じられない。 頭の中で渦巻く疑問。 私が何も言わずにいると、ユリさんは自分の口にもお菓子を投げ込みこう言った。 「本当なんです。付き合う前も、結婚してからしばらく経っても焼きもちばっかり。本当に社長を困らせました。しかも、何かあった訳ではないんです。社長と私は家も会社もおんなじだから毎日一緒で浮気なんてあり得ない。でもね、私も水渦さんと同じなの。些細なコトで変な想像膨らんじゃって、その想像で勝手に1人で焼きもちやいてた。ふはははは、ダメダメですよね」 同じだ……全く同じだ。 聞いた話に私はすっかり驚いていた。 恋とは恐ろしい、……天女でさえもおかしくなってしまうのだから。 ……と、言う事は、弥生さんもマジョリカさんも似た経験があるのだろうか。 「あると思います。だって、弥生さんもマジョリカさんもジャッキーさんが大好きだもん。女の子は恋をすると大変なんです。焼きもちはやいちゃうし、些細なコトで不安になるし……でもね、その反対に些細なコトで幸せにもなれちゃうの。好きな人が笑ってくれると嬉しいし、食べてる姿も寝ている姿も仕事の姿も尊くて、そんな姿を近くで見れて、それがすっごく幸せだぁって思っちゃう。水渦(みうず)さんも同じじゃないですか?」 ユリさんは言いながら、窓の外に視線を走らせふにゃりと笑った。 目線を追えば芝生の庭ではあの人が、バラカスさんのお腹に抱き着き毛皮の中に埋もれている。 彼の足には双子の天使とヤヨイちゃんがしがみつき、キャッキャとはしゃいで楽しそう。 ああ……あの人が笑っている、弾む声がとても明るい。 数年前までずっと遠くで見つめていたけど、今ではこんなに近くで見られる。 私は確かに幸せだ。
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