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「ユリさん、……ありがとうございます。仰る通りです。些細な事で不安になるけど些細な事で幸せにもなる。どうせなら、幸せばかりに目を向けたいと思います。とは言え……私の性格上、それが最も難しいのですが。これからはユリさんを見習い精進します」
本当に、年齢だけ見れば七つも下の女性だけど、考え方は私よりもしっかりしている、学ぶ所がたくさんある。
敬意を込めて頭を下げるとユリさんは大いに慌てて両手をブンブン振り出した。
「み、見習うとか言っちゃダメです! えらそうなコト言ったけど、焼きもちをやかなくなったのココ最近だし、焼きもち以外もいっぱい社長を困らせてるもん! まだまだなんです、修行がぜんぜん足りないの! だから一緒に頑張りましょう、頑張ってたくさん幸せになりましょう! って、私なに言ってんだろ! と、とにかくですね、水渦さんは今日の綺麗なこの姿を、岡村さんに見せつけてドキドキさせれば良いと思います!」
え……?
見せつけてって…………ぷはっ!
「ユリさん、なにもそんな拳を握って言わなくたって、」
おかしくて笑ってしまった。
笑えば気持ちが軽くなる、不安が薄くなっていく。
私が笑うとユリさんも頬を染めて笑い出し、そして。
「ふははは、ごめんなさい。ついつい盛り上がっちゃいました。でもでも、私は本気で言ったんです。岡村さんをドキドキさせてもっと好きになってもらって、そしたらいよいよプロp、」
言いかけた話の途中、
『ユリィィィィィイイイイイイ!!』
庭から聞こえた大きな声に話が中断されてしまった。
だ、誰!?
ユリさんの名前を呼んでいたようだけど、それにしては激しい怒声だ。
声の感じは年配男性、してその主は誰だろう……と、私が首を傾げていると。
「あ、爺ちゃんだ! ママも婆ちゃんもいる!」
御身内!?
ああ、そう言えば思い出した。
ユリさんのお爺様は限りなく清水に近いパワー系だと、昔誰かに聞いたのだ。
「水渦さん、今の声は私の祖父で、今日は家族も呼んでいたから黄泉の国から来てくれたんです。ねぇねぇ、今から庭に出ませんか? 家族を紹介させてください。水渦さんは私の大事な友達だって、教えてあげたら喜ぶと思うんです!」
さぁ!
そう言ってユリさんは、私の手を取り笑ってくれた。
握ったその手は温かで優しいけれど力強い。
”大事な友達”……私は密かに聞いた言葉を頭の中で反芻しながら、ユリさんの部屋を後にしたのだ。
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