第九章 霊媒師こぼれ話_エイミウの星の砂

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仲裁に入るべきか、それとも様子を視るべきか……その判断がつきかねる。 私がオロオロ狼狽えていると、それまで黙って微笑んでいた、瀬山さんの奥様が優しい声でこう言った。 『もう、また始まってしまいました。水渦(みうず)さん、大丈夫ですよ。あれは喧嘩ではありません。二霊(ふたり)はとっても仲良しだから、言いたい事を言い合ってるだけなんです。すぐに終わります、言い合っても5分もしないd……あ、ほら、視てください」 奥様は言いながら、私の傍にふわりと寄り添いレジェンド二霊(ふたり)を指さした。 即され目線を移してみれば、 『あれは仕方ないよねぇ。平ちゃんと現場だなんて生きてた頃以来だもの。張り切るなって方が無理だよ』←瀬山さん 『だよなぁ、俺だってそうだ。現場に立って、俺の隣にショウちゃんがいるんだぜ? そりゃ全力でいくだろ』←先代(いつもと口調が違う……!) あ……笑ってる、向かい合って互いの肩を叩き合ってる。 『ね、大丈夫だったでしょう?』 「そうですね……奥様の仰る通りでした」 さすがだ。 奥様は瀬山さんは勿論、先代とも付き合いが長い分だけ二霊(ふたり)の事をよく知っている。 感心しきりでそう言うと、奥様は私の返事に困ったような顔をした。 え……? 何故そんな表情(かお)を……?  もしかして……私はまた、知らず知らずにおかしな事を言ってしまったのだろうか……? 理由が分からず戸惑っていると、奥様は私の顔をジッと視て…… 『あ、あの、私の名前は瀬山 佐知子といいまして……その、生きていれば80すぎのお婆さんなのですが……も、もしよろしければ水渦(みうず)さんと仲良くさせていただきたいです。だから、私の事は ”奥様” ではなく ”佐知子” と呼んでくださると嬉しいです、』 頬を、林檎のように赤く染めつつそう言ってくれたのだ。 その言葉を聞いた瞬間、私の耳は熱くなり心臓がドキドキと高鳴った。 そう言えば……昔、先代から聞いた事がある。 瀬山さんの奥様はとっても内気な方なのだと。 人視知りもしてしまうから、交友関係は特に、自分から積極的にいけない方だとも。 その話を聞いた時、妙な親近感を感じたのを覚えている……私も、同じだもの。 その奥様が勇気を出してくださった。 私なんかと仲良くしたいと仰ってくださったんだ。 「……ありがとうございます。私も、な、仲良くさせていただければ嬉しいです、…………さ、佐知子さん」 改めて呼ばせてもらえば、私の耳は先程以上に熱くなる。 嬉しくて、だけど少々気恥ずかしい……でも、名前で呼ばれた佐知子さんの嬉しそうな笑顔を視ると、それだけで、今日という日に此処に来て良かったと思えたのだ。
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