第九章 霊媒師こぼれ話_エイミウの星の砂

42/102
前へ
/383ページ
次へ
身の振り方は時間をかけて検討し、私の命が終わるまでには回答させていただきますと、言おうと一歩、前に出ようとしたのだが……私が声を出すより早く、マジョリカさんが朋美さんに負けないくらいの大きな声を出したのだ。 『もー! 朋美はー! 勝手に決めちゃダメッ! 水渦(みうず)光道(こうどう)に来るって決まってるんだからっ!』 え! そうなんですか? これまで何度か冗談めかして言われた事はあったけど、あれはすべて本気だったのですね……こちらも十分検討せねば。 急展開に驚いて、話の中に入る機会を失った。 マジョリカさんは腰に手を当て朋美さんを視上げている。 ぷーっと頬を膨らませているのだが、どんな顔でも美女はやっぱり美女だった。 朋美さんは困った顔で頭を掻くも、 『えぇ……水渦(みうず)光道(こうどう)に入るのかぁ? ……って、そんな話は聞いてねぇぞぉ!? いや、でもな、こればっかりはいくらマジョリカでも譲れねぇ!……と、言いたいトコだけど、アタシはマジョリカに弱いんだよぉ。アタシだけじゃねぇ、白雪(バルク)もバラカスもおんなじだ。ぶっちゃけ、なんだかんだで黄泉で1番最強なのはマジョリカなのかもしれねぇなぁ』 こう言って、眉毛をハの字に笑い出す。 マジョリカさんも頬から空気を吐き出すと、その勢いで声を上げての晴れた顔。 笑う二霊(ふたり)が今更ながらに私に気付くと、 『『 水渦(みうず)! 』』 仲良く声が重なった。 そんな中、佐知子さんはニコニコしながら私に寄り添い、弥生さんには「モテ期が来たな!」と背中をバシッと叩かれた。 目線を飛ばせば、双子の天使と式の天使がバラカスさんに纏わりついてキャッキャと笑い、ユリさんとユリさん一家も楽しそうに笑っている。 先代も瀬山さんも、”バッドアップル” の隊員達も皆笑い、少し離れた所では男性陣がせっせとお肉を焼いていた。 此処は……天国だろうか。 みんながみんな笑っている、楽しそうにお喋りしながら美味しい物をいただいて、同じ時間を共有している。 そして私も此処にいて、同じように笑っているんだ。 楽しい、……すごく楽しい。 来る前は色々心配したけれど……来て、本当に良かったと思う。 …… ………… ……………… 楽しい時間は矢の如く。 この日、食べて飲んで喋って笑って、後片付けが終わった頃には夕方を過ぎていた。 ”楽しかった、また会おう” と、みんなで手を振り、それぞれが家路に着く為清水家を後にする____ ____茜の色が墨の色に上描きされた空の下。 あの人は私に向かって、 「水渦(みうず)さん、帰ろうか」 優しく笑ってこう言った。 一緒に帰る約束をちゃんと覚えていてくれた。 私はそれが嬉しくて、だけど言葉に出来なくて、自分自身にもどかしさを感じつつ、駅までの静かな道を歩き出したのだ。
/383ページ

最初のコメントを投稿しよう!

480人が本棚に入れています
本棚に追加