第一章 霊媒師こぼれ話_岡村英海

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16時57分____ 受付終了3分前だ。 さすがにこの時間に入電はないだろうと、いや、入ってくれるなと願いながら、僕を含めた【××通信社・お客様相談センター】のスタッフ達は、お茶を飲んだりネットを見たりと、終業までの僅かな時間を消費中だ。 今日も1日良く働いた、あと少しだ。 時計の表示が17時になれば、留守番電話に切り替わる。 そうなれば外部の電話は入ってこない、翌日朝の9時までは、お客様から頂戴する、”お叱り&貴重なご意見” を謹聴しなくても良いのだ。 あ……いけね、”しなくても良い” だなんて少し言葉が乱暴だったかな? でもねぇ、口に出して言う訳でなし、お腹の中で思うだけなら許されると思うんだ、てかそれくらいは許してほしい、お願い許して。 お客様相談窓口、自社商品やサービスに対するご不満、ご意見、ご要望を頂戴するコールセンター、会社にとってとても大切な部署だ。 大切ではあるのだけど……正直キツイ時もある。 朝から晩まで毎日毎日、電話を取って早々に怒鳴られる、なんてことは日常茶飯事だからね。 それでも、お客様はわざわざ貴重な時間を費やしてまで、わが社に電話をくれるというのはありがたい事なのだ。 不満があって、もう二度とウチの会社は使わない、そう思い黙って去る事も出来るのにそうしない。 文句を言うのはそれだけ期待をしてるから、この不満をこの会社ならどうにかしてくれる、要望に応えてくれる、……と思ってくださっているんだよね。 僕はこの5年、度々胃痛を起こしつつ【お客様相談センター】で頑張ってきた。 29才の誕生日の少し前には主任に昇格した。 なんだかんだ、大変な事はあるけれど、キッツイけど、たまに泣きそうだけど、でも、やりがいのある仕事なのだ。 なんて。 そんな事をボンヤリ考えていると、まだ落としてないパソコン画面、電話受付CTIのメインパネルが青色に点滅した____直後。 プーーーーーー! ヒィィッ! こんな間際にかかってきたよ! あと3分……いや、2分で業務が終わるというのに、お客様から入電しちゃった! だ、誰が取る……? 17時までは受付時間だ。 ギリとは言え時間内、この電話は誰かが取らなきゃいけないのだ……が、誰も取らないぃぃぃ! さっきまでのゆるいムードが一変し、みんな揃って目線を逸らし、中にはわざとらしく咳きこむ人も出始めた。 こりゃアレだ、今ちょっと咳こんでるから出られません的アピールだ。 ダメじゃん、そういうのダメじゃんか。 でも、気持ちは分かるよ。 一本取れば、そこから数十分から数時間はかかるのだ。 もう帰ろうという時に、出来れば誰か出てください! って……思うよね。 仕方がない。 ここはもう、僕が取るしかないだろ。
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