第二章 霊媒師こぼれ話_持丸平蔵と清水誠ー1

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まずは河岸を変えなくてはいけません。 なるべく端っこに行きましょう。 この中、人がたくさんいますからねぇ。 気を付けないとこの子、1人でブツブツ言ってる変な人だと思われちゃう。 なんてったって私の姿はこの子以外に視えないから、その辺は配慮が必要です。 と、いうコトで。 選んだ場所は壁際から数十歩の相談コーナー。 その中でも最奥の端っこです。 近くの床には背の高い観葉植物(しかもモシャモシャ!)、少しは隠してくれるでしょう。 さて、机を挟んでコチラ側に私が座り、真向いのアチラ側に男の子です。 これからしっかりウチの会社をアッピールしちゃいますからねっ! 「よろしくおねがいします」 男の子はペコリと頭をさげました。 んま、礼儀正しい子。 『はいはい、こちらこそどうぞよろしくお願いします』 私もペコリとご挨拶、……ささ、始めましょうか。 まずは……と、ハローワークの職員さんが座る席、ここにデスクトップのパソコンがあります。 ウチの会社の求人情報、これを画面に出しましょう。 ふふふ……大丈夫、1人で出来ますよ。 だって私、こう視えてパソコンは得意ですから! 鼻歌交じりにキーボードに手を置いて、”株式会社おくりび” と入力しようとした、……のですが、 スカッ! ん……?  ハッ! そ、そうでした! 私、幽霊だからキーボードにさわれないんだったー! どうしましょう! 霊力技(ちからわざ)で無理をすればキーくらい叩けるかもしれませんが、音が出ちゃうし光っちゃう! 下手したら壊しちゃうかもしれないし……! こうなったら仕方ありません、この子に頼みましょう。 『ちょっと良いですか? 私、年寄りだからパソコンが苦手なんです。だから代わりにキーボード打ってくれません?』 秘儀! ”こんな時だけお年寄り!” の発動です。 「え? ああ、良いですよ。なんて打ちましょうか」 あっらー! 優しい子! 嫌な顔どころか笑顔じゃない! 『ありがとう。じゃあココに ”株式会社おくりび” って打ってくれますか? おくりびは平仮名で』 男の子はムコウの席から身を乗り出して打ってくれ、最後にエンターキーを押すと、ウチの会社の求人情報が表示されました。
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