第一章 霊媒師こぼれ話_岡村英海

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机の上に放り投げたインカムを素早く手に取り頭につけた。 小さなマイクを口元に持ってくる。 そして、パソコン画面で青色に点滅中の【受信】パネルをクリックすれば、これで外部と繋がちゃうのだ。 じゃ、押すぞ、押すぞ、はぃぃぃ!(カチッ) 「お電話ありがとうございます。××通信社、お客様相談センター。担当、岡村でございます」 慣れた挨拶だ。 この瞬間、条件反射でインカムのボリュームレバーをほんの少し下げるのだが、その理由はお客様の大きなお声に備える為だ。 目一杯下げないのは、入電すべてが大声じゃあないから。 下げ過ぎて聞こえなくても困るのだ。 ____繋がった!! オィ! オタクの営業、一体どんな教育してんだ!! 開口一発、怒鳴り声をいただいた。 だがしかし、備えあれば患いなし、ボリュームを下げといたから耳に負担はかからない。 「弊社の営業スタッフが何かご迷惑をおかけしたのでしょうか? それは大変申し訳ございません。お客様、恐れ入りますが、詳しくお聞かせ願えますか?」 本当なら、すぐにでもお客様の会社名、電話をくださってる方のお名前、所属部署、電話番号を聞いておきたいところだけれど、順を追ってヒアリングしなければ、温度がさらに上がるかも。 すでにヒートアップしてるのだ、ここは慎重に行きたいよ。 そんな応対の様子に、まわりのスタッフ達は心配そうにこちらを見てる。 僕はみんなに笑顔を作ると、手ぶり身振りで先に帰って良いと伝えた。 大丈夫、入電中は課長も部長も残るのだ。 僕一人にはならないよ。 ____だからよ! あんたんトコの営業がウチの会社の電話機ぶっ壊しやがったんだ!! なぬ!? ウチの営業が? 電話機を駄目にした? や……そんなバカな、…………えっと……マジッすか? それはお怒りもごもっともです! 「さようでございますか。弊社スタッフが多大なご迷惑をおかけして申し訳ございません。早急に状況をお調べさせていただきます。また現在、電話機がお使いいただけないのであれば、業務に差し障りが有りさぞお困りかと存じます。すぐに修理の者を手配いたしますので恐れ入りますが、現在の状態をお聞かせ願えますか? 御社の、」 当然僕は、最初に聞きたかった会社名等教えてもらおうと考えたんだ。 ウチの営業が電話機を壊した、というのがどういう状況かが分からないし、もしかしたら勘違いかもしれない(勘違いであってくれ)。 だけど現に電話機に不具合が起きていると言うのなら、先にそれをどうにかすべきだ。 そこさえどうにかすれば、温度が少しは下がるはず。 その後、謝罪すべきはして、そうでないところはお話をしてご納得いただくしかない。
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