第四章 霊媒師こぼれ話_エイミーの元カノ

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梅雨も明けた夏本番。 7月後半のこの時期は、炎天下を歩くだけで汗だくになる。 そんな中、今日は朝一番で会社を出発。 お得意様をハシゴして外回りから戻った僕は、玄関扉をくぐった瞬間、社内のエアコンにホッと息を吐いた。 「あぁ……涼しい……最高だぁ……」 ブツブツと独り言ちてヨロヨロ歩き、まずはエレベーターに乗り込んだ。 僕の所属は営業一課で3階だから、当然、階数ボタンは ”3階” を連打して、課に戻ったらすぐさま仕事の続きを始め……なぁんてコト、するワケないぴょーん! こんなに暑い中、頑張って2つも契約を取ってきたんだ。 少しは休憩させてくれーっ!  という事で、僕は迷わず ”2階” のボタンをポチッとしたのだ。 チン! エレベーターの扉が開いて、そのまま真っすぐ歩いて行けば右手側にオープンタイプの休憩スペースがある。 そう広くはないけれど、大きな窓から光が差し込む憩いの場所だ。 僕を含めみんなは時々、コッソリ課を抜け出しちゃあ10分程度の休憩を取るのだが、見つかったとしてそれを咎める上司はいない。 そりゃそうだ。 だって、上司もしょっちゅうココに来るのだから。 テクテクと数メートル。 憩いの場に足を踏み入れ覗いてみると……誰もいなくて貸し切り状態。 とりあえず自販機の前に立ち、ペットボトルのジャスミンティーのボタンを押した。 ガコンッ! 音がして、受取口からそれを取り出し腰に手をあてグイグイ飲む、飲む、飲むー! そして、 「おいしー!」 人がいないのを良いコトに、大きな声で感想を述べてみた。 はぁぁ……生き返るわぁ……疲れてるとジャスミンティーが五臓六腑に染みわたるぅぅ。 ……と、そんな時だった。 背後から、僕の背中を誰かがツンツン突っついたんだ。 あ……っと思って振り向くと、 「ひーでみ、お帰り。外は暑かったでしょう?」 レモン色のワンピース、薄青のシンプルカーディガン。 足元はリボンのついた可愛いサンダル。 肩まで伸びたサラサラ髪はふわっとエアリー、ミルクティーと同じ色。 リスの子みたいにあどけなく、黒目がちのつぶらな瞳で僕を見るのは…… 「杏ちゃん、」 付き合って3年になる、同い年の僕の彼女。 榎本杏(えのもとあん)ちゃんだったのだ。 ff290827-b7ed-46b2-97f1-219287c3d309 2022/5/3 挿絵を差し替えました。
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