474人が本棚に入れています
本棚に追加
杏ちゃんはまわりをキョロキョロ。
そして誰もいないのを確認すると……恥ずかしそうに、自分の指を僕の指に絡ませた。
ああ……なんて可愛い。
「英海、おつかれさまぁ。今日は何件契約とれたの?」
きゅるんと小さく小首を傾げる杏ちゃん。
付き合って3年なのに、可愛い仕草にいまだにドキドキしてしまう。
「今日は2件。前々からご提案していたお客様達だったんだけど、やっと良いお返事をいただけたんだ」
「わぁ! おめでとう! 英海はすごいよね。先月も売り上げトップだったじゃない」
「す、すごくないよ。お客様が良い人達で、僕の話を聞いてくれたんだ。ありがたいと思ってる」
「またまたぁ、謙遜しちゃって。みんな言ってるよ? ”岡村くんは人たらし” だって。人たらしだからお客様にも好かれるけど、他の営業からやっかみも受けない、得な性格だよねぇって」
「そ、そんなコト言われてるの? ま、参ったな、本当にチガウんだ。僕はみんなに助けてもらってるの。それは、えっと……杏ちゃんにもね」
どさくさ紛れに言ってみた。
だって、僕は杏ちゃんの笑顔にいつも励まされているんだもの。
「英海……うふふ、ありがと。杏、英海のそういうトコロが大好きなんだぁ。あ、そうだ! 今夜の約束忘れてないよね? 一緒にイタリアンのお店に行くって言ったでしょう?」
あ、ヤバ……そうだった。
忙しくて忘れてたけど……忘れてたとは言えないや。
僕は大げさに頷きながら、
「も、もちろん! だ、だけどゴメン。予約……入れるの忘れてた」
と、ごまかしてみた。
すると杏ちゃんは、
「あぁ! その顔、その言い方、本当は忘れてたんでしょう! 約束のイタリアンは今夜だよぉ。んも、今言っておいて良かったぁ。ぜーったいに行きますからね! あとは予約かぁ……仕方ない、杏が代わりに入れとくよ。でも、今日の今日じゃ予約取れないかも。ダメだったら……街を歩いて最初に目に入ったお店に入ろうか、好き嫌いは言わせませんよ?」
なんでもお見通し、でもって怒りもせずにフォローまでしてくれたんだ。
「う、うん! ごめんね、ありがとね。そのかわり今夜はぜーんぶ僕がごちそうするから、なんでも好きなだけ食べて!」
「本当? やったぁ! じゃあケーキも食べたい! あ、でもな、新宿に新しいジェラートのお店が出来たみたいなの。どっちにしよう……迷う……」
最初のコメントを投稿しよう!