第一章 霊媒師こぼれ話_岡村英海

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見積書を渡した時、瀧澤社長は「こんなモン持ってきたって買えねぇよ」と呆れてた。 だけど次に行った時、目を疑った。 僕が作った見積書は、額に入れて飾ってあったんだ。 びっくりした、だって会社の事務所だよ? 僕はそれを見て、失礼かと思いながらも堪え切れずに笑ってしまった。 社長は怒るどころか一緒に笑い、経理をしている奥様もお腹を抱えて笑ったんだ。 そんなこんなで数年経って、僕が営業からお客様相談センターに移動になるって時、社長は額に飾った見積書を壁から外し、「これ、全部くれ!」と、そう言って破顔したんだ。 ____久しぶりだなぁ! 岡村君、ずいぶんヨソ行きの声出しちゃって。あんたいくつになった? 「29才です。もすぐ三十路ですよ」 ____はぁん、驚いちゃうねぇ! 初めて会った時は大学卒業したての小僧だったのによ! で? 結婚は? 「や……まだです。それどころかカノジョもいません」 ____あらら、じゃあウチの永遠(とわ)を……と言いたいトコロだけど、まだ高校生だからなぁ。つーかよ、よくウチのカミさんと娘の名前も覚えてたな! 俺はよ、あんたのそういう所が好きだ。だから電話も買ったんだ。あれからよぉ、大事に大事に使ってたんだ。なのによぉ、今日来た営業がよぉ、 そうだった、ウチの営業が電話機壊したって言ってたよな。 そこ詳しく聞かなくちゃ。 あの機器には僕も思い入れがあるんだもの。 「瀧澤社長、詳しく教えてください。なにがあったんです?」 ____それがな、 …… ………… 瀧澤社長の話はこうだった。 ウチの会社の営業がアポも無しにやってきて、「機器を総取り換えしませんか?」とまだまだ使えるにも関わらず、強引な営業をかけてきたというのだ。 当然、そんなのは必要ないと社長は答えた……が、「じゃあメンテナンスをしていきますよ」といろいろいじっているうちに、壊れてしまったと言うのだ。 だが、幸いな事に壊れたと言っても傷は浅かった。 電話もファックスもコピー機も通常通り使えるらしく、その辺は問題ない。 なにが問題かというと、電話機に登録された膨大な量のアドレス登録がすべて消えたとの事。 なんだ……その程度か……とホッと胸を撫でおろしたが、会社とすればその程度では済まないのだ。 電話がかかってきても、どこの誰からかかってきたのか表示がされず、かけるときもいちいち調べて番号を押さなくてはならない。 それってけっこう大変だ。 てかさ、何をいじってデータ飛ばしたんだか知らないけど、その営業はそのまま放置で帰ってしまったのか? それってすっごい無責任じゃない?
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