第四章 霊媒師こぼれ話_エイミーの元カノ

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最初は、……そう、とりとめのない雑談。 「今日は忙しかった?」とか「夜になっても暑いね」とか「ゴハンはちゃんと食べた?」と「お風呂はもう入った?」はセット物。 それで、さっきテレビで見たバンドの話もしちゃったり。 杏ちゃんの好きなバンドは意外と激しい。 エナメル衣装のヘビメタで、舌ピアスのボーカルさんがデスボイスで歌うんだ。 ____杏もね、テレビ見てた! ”Hell's Angels(ヘルズ エンジェルズ)” の新曲やってたよね! すっごいカッコよかったぁ、 「あはは、杏ちゃん好きだよねぇ。しかし、”地獄の使者” ってスゴイバンド名だ。杏ちゃんみたいな可愛い子がヘビメタ好きだなんてギャップ萌えしちゃう、」 ____えへへ、学生の頃からずっと好きだったの。曲も良いけど歌詞がカッコイイんだぁ。”私は誰にも負けない”、”夢を掴むためなら手段は選ばない”、って、そんな感じの歌詞が多いかな、 「わぉ、激しいね」 前に杏ちゃんから勧められた事のある ”Hell's Angels(ヘルズ エンジェルズ)”。 普段、ヘビメタは聞かないけれど、好きな子が好きな曲はなんだか特別に感じた。 内なる杏ちゃんを見れた気がして嬉しくもなったんだ。 そんな話で盛り上がりつつ、だけどここらで切り出そうと一呼吸を置いたあとにこう聞いてみたんだ。 「杏ちゃん、……その、最近どう? 仕事、楽しい? 部署内で困ったコトはない?」 ____………………どうしたの? いきなり、 杏ちゃんの空気が変わった。 戸惑っているような、ほんの少し怒っているような。 僕が何を聞きたいのか、察してしまったのだろうか。 「別に深い意味はないよ、……うそ、ゴメン。本当はあるんだ。あのね、実はある人から小耳に挟んだんだけど、その……杏ちゃん、部内であんまりうまくいってないって、……僕、それが心配になったんだ、」 ____………………そんな事、誰が言ったの? 「そ、それは……その、えと、……きゅ、休憩スペースでね、ちょっとだけ聞いたと言うか、その、誰がっていうのは、」 ____………………もしかして、五十嵐君?  「え!? ……や、その……そうだったかな? 違ったかな? ははは、」 ____その反応、やっぱりそうなんだ。……五十嵐君のカノジョ、杏と同じ部署だもん。カノジョから聞いたんだ、 「…………うん、ごめん。そうなんだ、聞いたのは五十嵐だよ。でもさ、五十嵐の事責めないでやって。心配してたんだ、杏ちゃんのこと。それで僕に話してくれたんだよ。ねぇ、杏ちゃん。部署でなにがあったの? もしかして、……いじめられてるの?」 ____…………………… 「……杏ちゃん? 言いにくい? 大丈夫だよ。話してくれたら力になる。僕が杏ちゃんを守るから。それと変に騒ぎ立てたりもしないから安心して。話してよ、僕は杏ちゃんのカレシだよ? 頼ってほしいよ」 ____…………………… 「…………電話だと言いにくい? だったら明日会う? 明日は外回りがあるから遅くなるけど、その後だったら、」 都合がつくよ、……と言いかけた。 言いかけたけど、それより先に杏ちゃんがこう言ったんだ。 ____そんなに心配してくれるなら、頼って良いなら、だったら、だったら……英海(ひでみ)、杏と結婚して、 ”結婚して” いきなり言われたこの言葉に、僕はすぐに返事が出来なかった。 結婚が良いとか悪いとかそうじゃなくて、とても、とても驚いてしまったんだ。
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