第四章 霊媒師こぼれ話_エイミーの元カノ

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◆ 「いやー、今日も京香の畑手伝ってもらっちゃって悪かったねぇ! いやさ、俺も時間があれば手伝うけど、仕事もあっていつでも付き合える訳じゃねぇからな!」 杏ちゃんとの電話を気まずく切った次の日。 僕は瀧澤建設様を訪問し、(りき)の入った営業……ではなく、瀧澤社長の奥様と畑仕事に精を出していた。 そう、瀧澤建設(ここ)ではいつもこの調子だ。 通い始めて数年。 その間、何度か見積書をお渡ししたけど、商品をご購入いただいた事は1度もない。 たぶんきっと、これからだって余程の事がない限り期待は出来ないと思う。 それでも月に数度は瀧澤建設(ここ)を訪問するのだが、その理由は…… 「岡村君が来てくれるとウチの京香も大喜びよ! ほれ、せっかく岡村君が収穫したんだ、この野菜持って帰んな! それとこれ、京香の煮物もな。今夜の晩メシにすりゃあ作らなくてすむだろ!」 とにかく温かいのだ。 訪問するたび僕は癒しをもらってる。 温かいのは社長や奥様だけじゃない、社員さんもおんなじで…… 「おっ! 岡村君いらっしゃい! 今日も京香さんと畑仕事してたの? 暑いから熱中症に気を付けてね。あ、そうだ(ゴソゴソゴソ)これあげるよ、塩チョコレート。汗掻いたぶん塩分を補給しなくちゃ」 この方は伊藤さん。 筋肉モリモリ、大きな身体に優しい顔のオジサンで、とにかくチョコが大好きなんだ。 会えばいっつもチョコをくれる。 「わぁ! 嬉しい! いつもありがとうございます、さっそくいただいちゃおっと! それから社長、野菜と煮物もありがとうございます。京香さんにもお礼をお伝えください。一人暮らしだから助かっちゃいます」 「おう! 伝えとく! ……で(ニヤニヤニヤ)、岡村君はどうなのよ? いい加減一人暮らしも飽きただろ、そろそろ結婚しねぇのか? 俺が岡村君くらいの時は、とっくに京香と一緒になってたぜ?」 あぅ……タイムリー! 昨日カノジョとそんな話が出たトコですよ……! 「いやぁ、その、えっと、なんと言うか……ねぇ、はは……はははは」 「なんだよ、キモチワルイ笑い方だな」 「結婚、結婚かぁ。いや、僕もね、いつかはしたいなぁって思うんです、」 そうだ、”いつかは杏ちゃんと” と、付き合い始めの頃から思ってた。 だけど、それが今なのかと聞かれると分からないんだ。 好きだから別れるつもりはないし、杏ちゃんが杏ちゃんでいてくれるなら、この先ずっと一緒にいたいと思ってる。 結婚するなら杏ちゃんだ。 でも踏ん切りがつかない、いや……踏ん切りというよりは想像がつかないんだ。 今の僕が結婚……結婚って誰かの人生丸ごと背負うって事だよね。 そういうのを考えると、もっともっと自分が成長してからでないとダメな気がするんだよなぁ。
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