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杏ちゃんとの昨日の事は伏せつつも、僕が今思っている事を瀧澤社長に話してみると、
「へぇ、なんだか小難しいコトを考えてるんだな。俺が京香と結婚した時はよ、もぉぉぉぉ、コイツしかいねぇぇぇぇ! ってな。へへへ! 押しに押したモンさ。昔、俺がまだ社長になる前だ。若え頃、別の建設会社で働いててよ、京香はそこの経理だった。分かると思うがアイツはモテた。えらい別嬪で仕事も出来る。気はやたらと強いけど、意地の悪い事は一切しねぇ。筋の通った優しい女だ」
瀧澤社長は日焼けの肌を赤くしながら嬉しそうに話を続ける。
「さっき岡村君は ”結婚は相手の人生丸ごと背負う” って言っただろう? それが不安で自分がもっと成長してからじゃねぇと考えられねぇって。俺は正直そこまでは考えなかった。とにかく好きで一緒にいたくて、苦労をかけるかもしれねぇけど、この女なら絶対に着いてきてくれるって信じてた。実際その通りだったよ。結婚した翌年に独立して瀧澤建設を立ち上げたんだが、まぁ苦労の連続だった。でもよ、文句の一つも言わねぇの。逆に俺が弱音を吐くと ”気合いを入れろ!” と尻を蹴飛ばされてな。そんなコトされたら頑張るしかねぇやな」
”へへへ” と笑って頭を掻いて、でも、急に真面目な顔をしてこうも言った。
「なぁ岡村君。確かによ、結婚したら相手の人生を背負う事になる。だが逆も然りだ。相手も岡村君の人生を背負うんだよ。苦労があっても互いの人生背負い合って、嬉しい時はバカみてぇに笑ってよ、苦しい時は一緒になって踏ん張るんだ。”成長してから結婚する”、それも一つの考え方だが、”好きだ!” って気持ちだけで飛び込んだって良いと思うぞ。本当に好きならよ、純粋な愛情があればよ、なんだって乗り越えられるさ」
豪快に ”ガハハ” と笑って僕の肩をポンポン叩く瀧澤社長。
僕はこの時、なんだか少し肩の力が抜けたんだ。
もしかしたら僕は ”小難しく” 考えすぎてたのかもしれない。
大事なのは ”好き” の気持ちで、社長の言う通り、案外なんとかなるのかも。
昨日はさ、”杏ちゃんが部署で浮いてる”、その事を解決したいと話していたのに、急に結婚したいと話が飛んで動揺してさ、うまく返事が出来なかった。
なにも明日に結婚しようというんじゃないんだ。
3年も付き合ってるし、前向きに考えても良いんじゃないか?
今まで以上に仕事を頑張ってさ、営業なら頑張った分だけインセンティブがつく。
それに杏ちゃんだって働いてるんだ。
2人で頑張ればどうにかなるだろう。
「瀧澤社長、お話を聞かせてくれてありがとうございました。僕、頑張ってみます!」
大きな声でお礼を言って瀧澤建設をあとにした。
急いで会社に戻ろう。
戻ったら残業しないで杏ちゃんに会いに行こう。
昨日は杏ちゃんに言わせてしまったけど、改めて僕から言うんだ。
____榎本杏さん、僕と結婚してください、
と。
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